後味

 最近、3階のクーラーのある部屋で寝るようにしたら、さすがに心地よいのか1時間ばかり長く眠れるようになった。僕は5時間から6時間睡眠だが、7時間くらい眠る日がある。カーテンがしっかりしていて朝日が入らないのも理由のひとつかもしれない。春までかの国の女性二人が使っていた部屋がもぬけの殻になり、もったいないという理由もあるし、何もない部屋が好きなこともあって、30年近く前に建てて以来初めて自分のために利用している。
 今朝も目が覚めたのは7時過ぎだった。通常より1時間起きるのが遅れたので散歩は薬局を開く前にすることにした。本来なら6時頃には散歩するのだが、1時間以上遅れると給食センターのスタッフ達が出勤してきて、挨拶がわずらわしいから、誰もいない時間を狙っている。逆に8時半にもなると既に皆仕事を始めているので人と会う機会もない。
 8時半頃に散歩に出かけると、対面の庭に軽四のバンが止まっていた。丁度庭に小屋を建てているところで職人さんが来ているのかと思ったが、30分後薬局を開けてその車の主が初めて分かった。シャッターを開けるのを待っていたかのようにある初老の女性が入ってきた。僕が目撃したのが30分以上も前だから、少なくともそれ以上の時間待っていたことになる。電話をくれるなり、呼び鈴を鳴らしてくれればすぐにシャッターを開けると言ったが、後の祭りだ。
 岡山市から30分以上かけてきてくれる方だが、こんなに早く漢方薬をとりに来た理由を教えてくれた。今日岡山県の高校野球で甲子園の最後の切符を決める試合があるらしい。そして女性のお孫さんが、片方のチームのキャプテンなのだそうだ。昼過ぎに試合があるらしく、それに間に合うように薬を取りに来たらしい。普通ならこんなに早く来なくても十分間に合うのだが、その女性は小さな会社を経営していて、なかなか抜けられないそうだ。だから仕事を片付けてから滑り込むのだろう。
 ただこんな話は女性が突然に話題に出したのではない。僕が女性の様子を確認するときに、今飲んでもらっている煎じ薬が血管に関して元気で長生きが出来ると話したとたん、長生きしなくていいと答え、孫ががんばっているところを見られるだけでいいと言った。そしてその延長上で今日、甲子園の岡山県大会の話が出たのだ。
 本来なら僕は高校野球にほとんど関心がない。ただ、数ヶ月前に突然漢方薬を取りに来るようになった女性の孫がキャプテンをしている高校が決勝戦を戦うと言うことが、少しだけ興味をそそった。それ以上でもそれ以下でもない。単なる偶然だが、こんなこともあるのだと、最近の「こんなこともあるのだ」に一つ付け加えた。ただ、今回の「こんなこともあるんだ」は良い方に属するから後味がいい。後味が悪いことばかり続くから、こうしたちょっとした出来事に慰められる。