井戸

僕が裏方をしている漢方研究会のメンバーは岡山県広島県の人たちだ。今度の大雨で被害を受けた県の人間ばかりなのだが、幸運にもどの薬局も被害を免れた。被害が報道された日に各社のセールスから情報を集めたが、どこの薬局もそういった被害地域に立地していないことがわかって、僕の頭から懸念は消えていた。ところが今になって、被災地域の日常生活の不便さが伝えられるに従って、インフラの破壊の影響を受けている薬局があるのではないかと心配になってきた。気にすれば余計気になって、報道される頻度が高い地域の薬局に電話をしてみた。何度か電話をかけたが全くつながらなかった。普段でもあまりつながらない大先輩の薬局だからいつものこととして済まそうとしたが、さすがに今回は状況が違う。今日、数日振りに電話がつながった。いつもの怠慢ではなくやはり不通だったらしい。「どうにかこうにか息をしていますよ」と、僕だと告げるとやんわりと答えてくれたのだが、やはり直接的な被害はなくても10日間断水を経験したらしい。でもその先生は、近所の井戸に救われたらしい。結構田舎なので井戸がある家が何軒かあるそうだが、偶然近所の方が日常的に使っている井戸があって、水質検査を受けていて飲み水にも使えるからとても助かったらしい。
 僕が昨年手に入れた古民家の庭にも井戸があって、安全のために埋めてしまおうと考えたのだが、知り合いの建設会社の社長が、井戸を埋めると祟りがあると言うし、これから災害が増える時代だから、井戸は持っていたほうがいいと教えてくれた。実際に井戸を掘る人が増えて彼も忙しいらしい。彼と僕の間だから営業言葉ではなく親切で言ってくれている。今は倹約のために井戸に蓋をしているだけだが、しっかりとした構造にして、衛生的にも管理をして、いざと言うときのために備えようと今日決心した。直接的な被害は大きな不幸だが、間接的被害も結構こたえるだろう。いつ何処ででも天災に遭遇する可能性が高まってきた今、持てるものを総動員して、災害に根こそぎ人生を持っていかれないようにしなければならない。