勝手

 あるトラブルのお世話をしていた親子が数ヶ月間来なかった。理由は好転したこともあるが、お嬢さんが自分で探した病院にかかったからだ。ところがそこでもらった薬で再び悪化して、僕のところに帰ってきた。
 そうした経緯で又お世話をし始めたのだが、色々学ぶこともある。その中で一番印象に残ったのは、お嬢さんが病院でもらった薬をすぐにインターネットで調べて、自己流で評価するらしい。効けば何も問題はないが、効かないときには原因探しをする。挙句の果ては、薬を勝手に評価し、前回のと今回のを飲み比べて、自分でルールを作ってしまう。
 薬が素人に分かるはずがない。インターネットの自分に都合がよい情報を集めて、自分の意に沿う結論を出す。それでは医者なんか要らない。医者も昔のように権威を前面に出せないから、そして競争も激しいから、人当たりを優先する。その結果、インターネット経由の知識と張り合わなければならない。気の毒なものだ、患者も医者も。
 お母さんが僕に色々要望を言った。理由が又勉強になる。僕は漢方薬を作ったときに処方名を言わない。それこそインターネットの知識と比べられたりしたら腹が立つから。お母さんは「先生が作った薬は中身が分からないから、娘も調べようがないんです。だから意外と落ち着いています」と言った。僕のずぼらがこんなところで役に立っている。勿論知りたい人には伝えるが、僕の体験では知りたがる人は病気が治りにくい。専門外のことでも調べなければ気がすまない人だから。
 決して現代的なやり方でもないが、僕は今までどおりの古い薬局のままでいようと思った。