定番

 その夢を見てもう数日が経つのに、忘れられない。僕の定番の悪夢ではあるが、その都度夢から覚めれば終りなのだが今回は違う。僕に言い難いだろうことをはっきり言ってくれたのが誰だか知りたいから、忘れられないのだろう。学生時代、悪友ばかりだったから、そんな極めてまともなことを言う人なんかいなかった。だから余計好奇心が高まり、いまだ拘っているのだ。
 卒業してから何回もうなされるのが、卒業試験の夢だ。何年かかっても卒業できそうになかった僕が当時奇跡的に卒業できた。もっともストレートに進級したわけではない。3年生を2度やった。卒業延期も複数回しそうだった。どんな偶然が働いたのか今だ謎だが、どうにかこうにか卒業できた。ところが何かとストレスに見舞われたときに決まって卒業試験が迫っている夢を見る。
 今度の夢もいつものパターンで進んでいた。どんどん追い詰められて行き夢の中でパニクっている。ところがある男性が、勿論学生だが、僕に「大和、そろそろ勉強を始めろよ」と言ってくれた。その逆は始終飛び回っていたが、勉強しろと堂々と言える人は珍しい。かつてがそうであったように、足の引っ張りあいか傷の舐めあいみたいなものだ。夢の中でも顔はおぼろげだった。そんな当たり前のことを言ってくれるような人は身の回りにいなかったから、余計新鮮なのだ。
 大学時代は僕の人生で一番勉強しなかった時代だ。だからこうして疲れが溜まってくるとフラッシュバックして僕を苦しめる。「僕は卒業している、僕は薬剤師に既になっている」とまるで夢遊病者のように訴える。いつまでこんな自虐的な夢を見なければならないのだろうと嘆きながら、かつてのトラウマともう40年以上戦っている。