内密

 「その後も漢方薬を続けているが、主治医には内密にしている。服用し始めの頃、患者が何気なく質問したときに、即座に漢方薬を否定する答えがあったため、禁止されないようにそのまま黙っている」
 この文章は、患者が書いたものではない。漢方薬局の薬剤師が書いたものでもない。漢方医が書いたものなのだ。漢方医と言う言葉が実際にあるのかどうかしらないが、漢方を標榜している医師が、全身性エリテマトーデスの患者さんを救ってしまったからとった行動なのだ。普通なら、どんな治療をしているか知らせそうだが、医者の間でも秘密にするのだ。その患者が漢方薬を飲めなくなったら困るから秘密にしているのだろう。
 僕ら圧倒的に医者より社会的評価が低いものが、運悪く患者さんを治してしまったりしたら、医者のプライドで何を言われるか分からないから「黙っていればいいじゃない。下手に言うと怒られるよ」とよく言うが、実際に医者に言っても何のメリットもないだろう。余程漢方薬に造詣が深い医者なら許してくれるかもしれないが、下手をするとボロカスに言われて折角効く漢方薬でも効かなくなりそうだ。まだそのくらいはいいとして、最悪なのは、薬剤師が懸命に考えた処方を横取りする医者も結構いるみたいだ。何を飲んでいるか聞きだして「保険が利くから安いよ」などと、何の職業かと問いたくなるような営業をする医者もいると聞く。さすがに田舎にはいないが、都市部は競争が激しいのか薬局を大いに困らせているらしい。
 僕の薬局にもそうした都会の風景みたいなものが少しは垣間見られるが、まだまだ珍しい光景だ。むしろその逆もある。病院で貰っている〇〇〇の漢方薬が効かないから、同じ薬を煎じ薬で作ってとか、台湾の漢方エキスで作ってなどと頼まれる。症状を聞いて正しそうに思えば作るが、それなりの金額を頂いてもどなたも文句を言わない。やはり何をおいても効かなければ意味がないのだ。製薬会社が利益をがっぽり得て、それを政治家に還元する。日本の漢方薬の主流はそういった流れだろう。どこの世界も同じで、1度やると汁が旨すぎてやめられないのだろう。だから何代も政治屋がのさばる。