口癖

 「ええ薬なんじゃなあ!それを飲んだら気持ちが落ち着くんじゃ~」僕の口癖だ。多くの人が、老いも若きもとてもありがたがって飲んでいるのが安定剤。だいたい言葉の響きがいい。心を安定させるかのごとき、名前を聞いただけで気持ちが安定しそうだ。
 名前を用途によって変えても、所詮睡眠薬と同じだ。安定剤を出されているもともとの疾患はそれこそ一杯あるが、それが睡眠薬で治るはずはない。飲んで1,2時間、睡眠薬だから不安感は軽減されるだろう。だからその後又正気に戻ると余計不安になり、又薬に手が伸びる。本来は不安時に飲めばいいものだが、ついつい毎食後服用になったりする。僕が感嘆するのは、その薬が皆さん止めれなくて、一生病院通いをいとわないことだ。もし僕の薬局でそこまで強烈な信者を作ることが出来たら経済的には安泰なのだが、残念ながら薬局にはそんな魅力的な商品はない。懸命に体によいものを説明しても、なかなか手を伸ばしてくれないし、飲み始めてもすぐに止めてしまう。そこで依存が成立するものと善良な商品との差が出る。
 もっともこれで人生が救われている人は一杯いる。医療になくてはならないものであることは疑いがない。僕が言いたいのは、それなくして生活できるようにもっと努力したらいいのにと言うことだ。仕方ないから飲むのであって、仕方ない状態を無くするのが本来の目的だと思うのだが、その努力を多くの人がしない。依存が成立するのは結構早い。皆さんが考えている以上に早い。だから早い時間にそうした努力をすべきだと思うが、そうした努力をしている人に遭遇しない。皆が何故か居心地の良さに甘んじているように思えるのだ。
 余計なお世話はしたくないから、こちらからモーションを起こすことは決してしない。ただ、もどかしさの中で、僕ならこうすると日の目を見ない処方が頭に浮かぶ。