丁重

 岡山市で医院などを手広くやっているお医者さんが今日訪ねて来てくださって、牛窓分院の調剤を手伝ってほしいと頼まれた。普通の薬局や薬剤師なら、もろ手を挙げて喜ぶのだろうが、丁重にお断りした。「まことに名誉なことですが、ご辞退させていただきます」と。
 帰られてから娘に報告すると「ありがとう」と礼を言われた。なかなか子供に礼を言われるようなことはないから、珍しい事だなと思いながらもそれでよかったんだと思った。病院の下請けをしていれば経営的には安泰だし、自助努力が要らない。患者さんは病院が作ってくれるから、ひたすら病院の意を損ねないことに注力して入ればいい。ところが僕はそのことが一番苦手なのだ。娘夫婦も恐らく僕に負けず苦手だろう。
 理事長先生にしてみれば、田舎の暇そうな薬局で、3人も薬剤師がいるから、手伝ってもらうことくらいすぐに承諾が得られると思ったかもしれないが、実際には娘夫婦は日曜日にも出てきて、ある介護施設の予備調剤をしているし、僕は毎朝6時から開店の9時までこれもまた漢方の予備調剤をしている。気力は勿論、体力もないし、時間もないし、欲も無いから、これ以上の負担は出来ない。もし調剤を受けるとしたら、薬剤師を雇わなければならない。そういった理由も挙げてお断りしたら、納得してくださったのか、最後の方は漢方薬の話をして帰られた。
 頑なに門前薬局を拒否する姿勢はこれからも続ける。そうしないと、漢方薬を欲する方に漢方薬を届けられなくなる。「医師を差し置いて」などと批判されたら手も足も出なくなる。僕のわずかに残っている存在意義が「医師でも治せないもの」なのだから、今の自由は大切だ。誰にも気兼ねなく、困っている方の世話をする。当たり前過ぎるくらい当たり前の実践だ。