度胸

 土曜日の夜、何気なくNHKのテレビを見ていたら、なにやら登山家のドキュメントらしきものをやっていた。普通ならまず僕が登山に関するものを見たりはしない。興味がないに尽きるが、何故か僕は釘付けになって最後まで見てしまった。
 全く縁遠い世界なので、見るものの全てが初めてのことばかりで、危険を顧みずに、恐らく征服者としての誇りのために上るのだろうが、あまりにも命がけなのが不思議だった。もっとも70度の氷の斜面を登っていくのだから、命がけと言うより、命を落とす前提みたいなものだ。そもそも凍りにピンを差込、それでそのピンが抜けない前提で全て事を行うことが出来る勇気には感服する。実際に撮影中に滑落しそうになったが、。そのピンで中ずりになって助かった。もしあのときにその氷の壁に刺したピンがゆるくて外れていたら、何百メートルも滑落して死んでいただろう。
 1日をかけて300メートルくらい登り、どこか平らな岩を見つけてテントを張る。眼下には数百メートルもある氷の断崖だ。よくもそんなところで眠れるなと思うが、その度胸たるや半端ではない。僕はその映像を見ていて、彼に勝るスポーツマンはいないと感じた。いみじくもサッカーのワールドカップが行われ、汚いプレーをした日本チームが非難を浴びていたが、その汚さと、登山家の懸命さのギャップが激しく印象付けられた。そもそも僕はサッカーに興味はなく。年収200万円にも満たないような人間が、何億、何十億と稼ぐ彼らを何故応援しなければならないのかと思っていた。外国の選手はまだそれに〇を一つ増やすみたいだからなおさらだ。
 命がけの人間と金がけの人間の収入が逆転してはいけない。命がけで仕事をしている人間は世界中に一杯いる。そうした人たちに富は配分されなければならない。ゆめゆめボールを蹴るだけの人間に上げたりしないで。