去年の夏以来かもしれない、こんなに強い雨が降ったのは。と言ってもさすがに牛窓は瀬戸内地方で雨はそんなに強くない。よその人から見たらそれで強い雨などと言うなと叱られるレベルだろう。1時間に何十ミリと言うようなものではなく、我が家の駐車場に水溜りが出来たというレベルだ。茶色い水溜りが広がったのを見たのは久しぶりだった。
 その雨が夕方には上がって、雲の間から晴れ間が広がってきた。急に明るくなったので嬉しくなって外へ出てみると東の空に虹がかかっていた。「虹が完成している」と言いながら僕は一人で見るのはもったいなかったので家族に教えた。すると娘は薬局の入り口から、妻は裏の事務所から外に出て眺めた。僕が完成と言う言葉を使ったのは空に浮かぶ虹が何処も途絶えていなかったのだ。虹は本当に時々しか見ないが、なかなか半円を途切れることなく見ることが出来る機会は少ない。自然の作る芸術だ、鑑賞しない手はない。
 しかし、さすがにじっと眺めているタイプではないから、薬局に戻って簡単な作業をこなしてから再び戻った。すると何てことだろう、南の地上に近いところだけを残して8割がた消えていた。僕は虹がこんなに短い間しか見えないことを知らなかった。ほんの数分だったと思うが、こんなに短い時間なら何かお願いしておけば良かったと、流れ星と本気で間違えて考えていた。
 少しの時間だったが虹を見て喜んだ。こんなことで喜ばなければならないほど気持ちも体も疲れているのかと思うが、自然の創作物には人の力など及ばない事実確認もまた、僕には新鮮だった。