偶然

 偶然をありがたがったり悲しんだり、人はそうやって後付で言い聞かせながらでないと生きていけないのだ。喜びも悲しみも作為でなんとでもなる。特に喜びはその効果が多い。
 昨日ある親子が処方箋を持って薬を取りに来た。久しぶりに見るお母さんだったので、僕が応対した。症状をお母さんが説明してくれたのだが、漢方の患者さんではないから何処まで介入していいのかわからない。大阪の病院にかかっていたお嬢さんの状態が改善しないので、急遽呼び戻して岡山のある総合病院に連れて行った帰りだそうだ。一昨日戻ったらしいのだが、お嬢さんの住んでいる街が何と昨日地震に襲われた高槻だそうだ。大阪のただの一つの街で、何の関係ない僕にとっては馴染みのない街だが、朝からずっとその街の名前を耳にしていたからすぐに分かった。
 思わず僕は「運がよかったね」と言ったが、お母さんも鸚鵡返しで同じことを言った。傍でお嬢さんも頷いていた。正に3人が同じ意見で一致したわけだ。もしそうなら逆の人もいるわけで、偶然その日のその時間に高槻の街を訪ねた人もいるはずだ。そうした人は運の悪い人なのだ。前者は偶然をありがたがり、後者は偶然を恨む。多くの要素が絡み合っての必然は、起こった事象で偶然と呼ばれる。必然はさぞ機嫌が悪いだろう。
 

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