木枯し紋次郎

 僕ら世代の人だったら「木枯し紋次郎」はよく知っている。勧善懲悪が建前の時代劇でニヒルを売り物にした時代劇だった。形破りの時代劇に新鮮さを感じた人は多かったのではないか。古いものを壊すことが時代を動かすことと共通語の時代に現れるべくして現れた時代劇だと思う。
 その紋次郎を演じたのが中村敦夫で、突然出てきた遅咲きの俳優って所だったが、実際は知らない。舞台俳優だったのかもしれない。その後彼がニュースキャスターになって驚いた。俳優なんてどうせ頭はないものと思っていたから、そこそここなす俳優に、頭があることを学んだ。そしてその後政界にも進出して、見直す羽目になった。で、そこから先は知らなかったが、先日、毎日新聞にインタビューが載っていて、出家したらしい。そして今一人り舞台で全国を回っているらしい。
 テーマは原発で、あれだけの犯罪的被害をもたらしたやつらが、誰一人お咎めを受けていないことを告発するものだ。僕は、犯した罪の重さから言えば死刑になる人間が続出してもいいと思うのだが、森友や加計と同じ構図で、権力を持っている側は何をしても裁かれない。権力から引きずり落とさなければ罪に問えないってことだ。1000円盗んでも刑務所にいく人間だっているだろうから、去勢された市民は浮かばれない。
 彼が一人舞台で使っている決めゼリフがいい。「右向けといわれれば右向き、左といわれれば左、死ねと言われれば死ぬ、俺はもう そういう日本人にはなりたくねえんだ」と言うものだが、的を射ていると思う。いつの時代かと思うようなことを昭和の時代にはやって、またぞろ平成の時代に同じような雰囲気をあいつらが作ろうとしている。それなのに虫けら同然に扱われる人間たちが気がついていない。人間の上に立ちたいやつ等ばかりが画策し、虫けらのほうは気がつかない。これではいつまで経っても虫けらだ。靴底で一瞬にして踏みつけられこの世から消える虫けらだ。
 現実にも長い爪楊枝を加えた紋次郎が現れないかな。「あっしにはかかわりないことでござんす」といわない紋次郎が。