歯がゆい

 なかなか歯がゆいものだ。歯に衣を着せたような受け答えしか出来ない。
 処方箋の患者さんは基本的には僕は応対しないのだが、姉の友人だし、昔から知っている人なので僕が応対した。向こうは僕が久しぶりに出てきたから、余所行きの表情を一気に崩した。気分が楽になったのだろう饒舌にもなった。その饒舌から出てきたのは、皮膚科の医師への不信感。今貰ってきたばっかりの処方箋についてコメントを求める。求めるというか、疑っているから僕の口から否定的な回答を聞きたかったのだろう。でも僕は紳士協定で批判は出来ない。笑ってごまかしただけだ。僕の薬局は、どこの門前薬局でもないから、結構自由にものは言えるのだが、批判めいたことや否定は出来ない。笑ってごまかすは便利な手だ。
 ただし、僕は出された薬と本人の説明でかなり効果を疑った、本人は長年の顔の熱感で困っているのに、出されるのはステロイドの軟膏だった。ところが今日は抗菌剤が出ている。ニキビかと思うがそんなものは出ていなくてきれいな顔をしている。漢方薬をやっている人間ならこれがすぐにのぼせだと分かり、漢方薬での対処の仕方も分かるのだが、それは禁句で言えない。本当は「僕が作ろうか」で全て解決できるのだが、あまり気乗りしない様子でクールに聞き流していた。
 今日この抗菌剤を出すときに、患者が「先生この薬効くんかなあ?」と尋ねたらしい。すると医師が「害にはならないからやってみましょう」と答えたらしい。こんなだいたいの会話がなされるんだと、その話を聞いて何故だか僕はほっとした。超専門の医師だって分からないことがあり、そんなときには結構冒険みたいなこともするんだと知ったからだ。親近感がおのずと湧いてくる。
 漢方薬が分かればお手伝い出来ることは一杯ある。ただ、この歯がゆさこそが僕ら凡人の強力なブレーキになってくれる。