嗅覚

 この町の誰かが亡くなると、そのうちの半分は彼の口から知ることになる。どう言った嗅覚を持っているのか分からないが、およそいい香りを得意とする嗅覚ではない。
 そんな彼が昨日の昼過ぎにやってきて、僕を見つけるなり、「奥さんは元気なん?」と尋ねた。薬局に入ってきた人には見えないが、妻は裏の事務所にいた。だから当然僕は「元気よ」と答えたが、明らかに彼の表情が曇った。一瞬だから普通の人は気がつかないかも知れないが、何十年も付き合っている僕には分かる。明らかに期待を裏切ったのだ。
 「どうしてそんなことを聞くん?」と僕が聞き返すと「今朝、救急車がヤマト薬局の駐車場に止まったからびっくりしたんじゃ。大和君か奥さんのどっちかしかなかろう」と、結構ストレートだ。「悪かったなあ、二人とも無事じゃあ」「ほんならいいけど、心配したが!」「でも、〇〇君、時計を見なかったから分からなかったけど、救急車が来たのは何時ごろの話なん?」「朝の3時じゃが」「何でそんな時間にうちの前にいたの?」「・・・・・・・・・・」
 まるで健康に良いことなどしない人間が、結構長生きしている。ヤマト薬局を利用してくれる人は皆が皆、健康に細心の注意を払っている人ばかりではない。むしろどちらかと言うと、人生を楽しみながらそれでいてちゃっかり元気で長生きを目指している人間が多い。薬局のいいところで、「元気ならいいが!」主義でやってきたからそれに共感してくれる人も多い。ところが、彼みたいにやっていいことの限界を超えすぎの人もいる。健康だけでなく、法律のやっていい事を大きく越えすぎて、法務局のお世話になる。
 酒にタバコに悪事にやり放題の人が、そこそこ真面目に生きている人間よりも健康的などは許されない。「〇〇君、僕より長生きするな!」