恩返し

 ペットを飼う家が多いせいか、制作費が安上がりにつくせいか知らないが、犬猫を登場させる番組が増えたような気がする。犬のかわいさを知ってしまったから、以前にも増して目が行く。クリとモコの2代に渡って一緒に生活したから30年近く犬と暮らしたことになる。およそ想像がつかない僕の変りようだが、あの2匹に巡り会えて本当に幸せだったと思う。テレビの中の犬達の仕草を見ては2匹を思い出す。とりわけ最近亡くなったモコは、ミニチュアダックスと言う犬種の特徴で、老いても赤ちゃんみたいだったから、喪失感は大きい。テレビであの犬種を見ると、顔がどれも同じだからモコと見間違えることしばしばだ。そのたびに強烈な喪失感と寂しさに襲われる。
 家族の誰もが言えない言葉がある。誰もが口に出さないことを暗黙の内に決めている。それは次の犬を飼うことだ。僕ら夫婦は勿論、とてもモコをかわいがっていた娘夫婦も、次の犬は飼えないのではないかと思う。モコはモコで代用がきく様な存在ではなかった。モコとそっくりでもモコではないのだ。もし飼う事を許されるとしたらモコの子供くらいだろう。ただモコは子供を産んでいないからそれは不可能だ。だからもう僕らには犬と暮らす日は来ないだろう。
 僕らはモコに誠実であろうとしている。溢れんばかりの愛情表現で応えてくれたモコへの最低限の恩返しだと思っている。