僕にとっては恵みの雨だったのだが、あの人たちにとっては迷惑な雨だっただろう。
 朝出かける時間帯に雨が強くなったので、かの国の女性達を笠岡ベイファームにポピーを見に連れて行かなくても良くなった。そのおかげで昼過ぎには岡山で用事を済ませて牛窓に帰ることができた。メールを覗くと漢方薬の依頼が沢山入っていたので、月曜日に持ち越さないようにその日の内に作って発送しようと思った。シャッターを下ろしたまま黙々と漢方薬を作った。
 4時頃、区長が、お神輿が隣の部落に既に来ているから後10分でこの地区にやって来ると放送で教えてくれた。この放送は予想外だった。放送が始まる鐘の音の段階でさすがに「今日の御みこしは中止」と思っていた。ところが雨天決行宜しく、既にそこまで来ているらしい。僕が帰宅したときでも、雨にぬれるのが嫌なくらい降っていて、それよりも雨脚は強くなっているはずなのに、神輿を担いで近づきつつあるという。春祭りは往々にして雨が降る確率が高いが、ここまで強い雨で担いだかなあと、僕らが担いでいたころのことを思い出した。
 神輿だから船頭とは言わないのだろうが、やはりどの世界でも船頭はいるもので、恐らく誰か力がある人物が、雨でも担がせているのだと思う。肌着に白装束で、いくら酒を飲まされているといっても寒くないわけがない。恐らく担ぎ手の全員が明日仕事だろうに、風邪を引いたりしたら気の毒だ。神様のためなら雨ごときなんのそのと、やはり神様は偉いのだ。人間の健康なんぞ二の次だ。
 母が亡くなっていなければ本来今日はお接待の準備でてんやわんやなはずだったが、この雨の中で御接待をしていたらと思うとぞっとする。風邪をひくこともそうだが、漢方薬を作ることが出来ずに患者さんに迷惑をかけていた可能性がある。こんなことを言うと神様の罰が当たりそうだが。