無防備

 もう何年も薬局の正面の軒下にツバメが巣を作っていたのに今年は作らない。縁起がいいと何故か信じているものだから、作らないとなると何か不吉なことを考えてしまう。娘も心配になっているのだろう、薬を買いに来たある車屋さんに「ご主人の工場に、ツバメが今年も巣を作っていますか?」と尋ねていた。すると工場の巣は昨年蛇にやられたらしくて今年は巣を作る気配がないらしい。よく工場にツバメの巣があることを知っていたものだと思うが、車検をお願いしている工場だから訪ねて行ったことがあるのだろう。
 縁起がいいと信じて、糞が汚くても、丁重に毎年もてなしているが、その言い伝えは我が家はどうも素通りらしくて恩恵はない。それでも邪険にできない運の強さをツバメは持っている。ハトも言えるかもしれない。早朝歩いているとかなりの距離まで接近を許してくれるが、野生の動物がそうした無防備を覚えるほど人間はハトには敵対してこなかったのだろう。
 毎日があわただしく過ぎていく。人に慰めてもらうことは出来ないが、早朝、鳥達がさえずり飛び回る姿には慰められる。毎年、大家面して眺めているが、今年は単なる近所の住人。人に疲れたときに、人に慰められるのは難しい。こうした時は羽を持った、言葉を知らない生き物達に限る。