地雷

 僕の言葉を通訳が訳して伝えた瞬間、目の前の女性が一瞬くらい表情になった。はにかんだようにも見えたが、実際には傷つけたのだろう。明らかに僕は地雷を踏んでしまったのだ。これが医師や薬剤師の最近の国家試験ならそこで一発退場だ。僕らの頃は地雷なるものはなかったが、息子達の時代にはあったらしくてやたらその隠語が耳についた。
 かの国から3ヶ月の応援部隊でやってきた2人と話をしていて、どうして働く期間を3年ではなく3ヶ月を選択してやってきたのか尋ねたときだ。通訳が訳した答えによると健康診断で引っかかるから3年では来れなかったそうだ。それを聞けば僕は分かる。もう10年近く実習生や研修生と関わっているから理由は分かる。恐らくあの若さで引っかかるとすればBかC型肝炎のキャリアなのだ。日本では今ではかなりの確率で克服できるがかの国ではまだまだだろう。僕は慌てて「いいの、いいの言わなくても分かっているから」と言ったが通訳は敢えて訳さなかった。傷つけたことが分かったのだろう。
 かの国ではまだまだその手の患者が多いらしくて、僕も何人か遭遇した。いずれあなたの国でも克服できる病気になるよと伝えたが、当人にとってはそんな悠長なことは言っておれないだろう。何とか日本で治療を受けられないかと画策したことはあるが、智恵も力もなかった。静かに体内で進行していくものを指をくわえて見守るだけはもったいないが、知識不足かピンと来ないのか、いつもの素敵な笑顔でいられると余計に痛々しい。
 国家試験の地雷なら自業自得だが、人を傷つける地雷を踏んではいけない。