感傷

 何度も浮かんだ言葉があるのに、どうしても最後の言葉が浮かばなかった。
 最初はラッキーくらいに思った。どちらかと言うと同行のかの国の女性のために選択した観光スポットだったから、僕がうれしくなるような予感はなかった。そこに降って湧いたのが僕が好きな大道芸だったからだ。それも初めて見るもので、レベルも高かった。これをラッキーと呼ばずして何と呼ぼう。
 太鼓の音に誘われて異人館を歩くと人だかりができていた。そこではいわゆる猿回しが行われていた。テレビで見たくらいだが、そんなに興味も持たなかったから、ほとんど知識はない。だからサルの芸を予備知識なしで素直に楽しめた。また驚きでもあった。ところが次第に能力の高さや表情から、むしろ人間に近いように見え始め「おもしろてやがてかなしき・・・」と言う言葉が浮かんでは消えるようになった。ただ、面白くてそのうち悲しきものに見えたのが何だったか肝心のところが思い出せなかった。何故か花火の様な気はしたのだが、なんとなく僕の記憶の語呂とは異なる。何となくしっくり来ないのだ。
 サルの知性や身体能力に驚きながらも、時折サルが見せる表情が悲しく見え始めるとなんだか辛くなってきた。このサルにとって幸せな光景なのだろうかと、分かりもしないサルの真情を慮って勝手に落ち込んできた。そんな時に頭に浮かんできたのが正に「おもしろて・・・・・・・」のフレーズだったのだ。
 結局、その現場では思い出すことは出来なかった。そして帰ってからインターネットで調べると「おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉」が見つかった。喉につかえたものが取れた気がした。勝手に擬人化して感傷に浸っているのか分からないが、須磨海浜公園のイルカにしろ、このサルにしろ、答えに窮する。