境目

よく覚えているものだ。言ったこちらは完全に頭から消えていたのに。
 今年は花粉が多いのだろう、花粉症の人は大変だ。今朝も7時頃に電話をしてきて鼻炎の漢方薬を作ってと頼まれた。お医者さんで貰っている抗アレルギー剤が効かないと言うからよっぽどのことだ。普通なら効き過ぎて運転や仕事に差し支えるから漢方薬で何とかしてくれと頼まれるのが多いだが、今年は逆の場合もある。
 昼過ぎには3人分の漢方薬をとりに来てくれた人がいる。その中の一人がまさにかつて僕が言っていたことを覚えていたのだ。そもそもアレルギー反応なるものは、異物に対する免疫反応だから、若者の特権だ。外部からの進入者に抵抗する力が強いから起こる。僕ら世代になるとアレルギーを起こす力もない。だから結構、歳をとった人がアレルギーの相談などに来たら一体この人はどんな人間かと思ってしまう。来局した方の友人が今年初めて花粉症を発症したらしい。それも60歳を回ったところで。
 そこで飛び出したのが「私自衛隊に入ろうかしら」だった。「〇〇さんに漢方薬をとりに行ってと頼まれたんじゃけれど、〇〇さんは私、自衛隊に入ろうかしらと言っていましたよ」と教えてくれた。恐らく花粉症だといって薬を求めてきた時に「アレルギーは若者の特権だからなるはずがない。アレルギーはまだ自衛隊が強い人にしか起こらない」などと説明したのだろう。それを覚えていて、アレルギー反応を起こす自分がまんざらでもなかったのだろう、症状にはかなり戸惑っているらしいがそんなに深刻そうではなかったらしいから。
 今は、昔の年齢より10歳は若いだろうから、こんなことも起こる。もっともその友人は最近富に充実しているらしいから余計だ。60を過ぎて日常に変化を起こし、充実した生活を送っているというから、世代の呼び方も難しい。壮年?老人?境目?