地震

 地震は本当に怖い。しかしもっと怖いものが実はあった。
 早朝に起こった島根県地震で、ここら辺りは震度3だったらしい。丁度昨夜、かの国から3ヶ月だけ応援部隊としてやって来ている女性たちに「地震にあわなくて残念だったね」と言ったばかりだったのだ。その話をして僅か数時間後に人生で初めての体験をしたことになる。ひょっとしたら滞在中の一番の思い出になったかもしれない。
 僕たちが寝ている和室の隣に洗濯機があって、どういうわけかすごい振動で酔いそうなくらいだ。知らない人だったら地震と間違えて飛び起きるだろう。丁度地震が起こったときに僕が地震だと言ったそうだ。ところが妻はいつもの洗濯機の振動と間違って「洗濯機でしょう」と言った。朝になって真相はわかったのだが、そちらのほうが実は震度3より恐ろしい。
 と言うのは実は僕は全くこの経緯を覚えていないのだ。妻が「お父さん、地震地震だと言っていたではないの」と教えてくれるのだが、僕には全く記憶がないのだ。そもそも昨夜地震があったことも朝のニュースで知った。何も感じなかった。目も覚めなかった。心配になり何度も何度も記憶を呼び戻してみたが全くそのことを思い出せない。最後には妻が嘘を言っているのではないかと思い始めて確かめても見た。でも妻は自信を持って具体的に話してくれる。
 地震より怖かったものは、実はこの意識が全く飛んでしまっている点だ。地震は数秒だがこのことはこれからますます頻繁になってくるし程度も上がる。地震は物を壊すが、こちらは人格を壊す。どちらがより恐ろしいか分かる。修復不可能のほうがより恐怖感は増す。今度の地震は建物を揺らさずに、僕の心を揺らせた。震度はいくつかしらないが。