貴重

 僕が牛窓に帰って来たときに、父がめっぽう風邪をひいた人に飲ませていたアンプル型の薬がある。甘くて美味しくて、風邪薬でなかったらペットボトルで飲みたいくらいだ。当時も今もあまり値段が変らないから、結構高い風邪薬だったことになる。1本500円で、1日3回飲む。ただよく効くからそんなに飲まなくてすむことも多い。おかしいなと思ったときに飲めば1発で解決することも多い。
 薬局には風邪の方がよく来るからすぐ移ってしまう。そういったときには早めに飲むとひかなくて済む。最近僕の薬局では、それとほぼ同じ成分の薬を娘が作っている。薬局製剤と言う薬を作る免許を貰っていてそれにのっとって作るが、今では僕の薬局の看板商品になっている。ただ、それを作る前までは圧倒的にそのアンプル型の風邪薬が売れ筋商品だった。
 今日嫁がそれを6本薬局から持ってきて、何円ですかと聞く。どうしたのと尋ねると息子が飲みたいそうだ。つい最近、嫁が風邪をひいているときに持たせてやったのだが、その残りを自分が風邪をひいたときに飲んですぐ治ったそうだ。「あれはよく効くから、貰ってきて」と言ったそうだ。もっとも息子にも子供の時にはしばしば飲ませているはずだ。薬局だから風邪をひいて病院に行くことはない。恐らく毎回その類で治してやっているはずだ。ところが子供だから単に与えられたものを飲んでいただけなのだろうが、さすがに大人だから評価をする。その結果が合格だったのだろう。
 息子だからいつでも必要なときは勝手に持って帰ったらいいといって持って帰らせたが、さすが薬局の子は薬局の薬が好きだし、評価もするものだと思った。幼い時の記憶、或いは最近になって僕の漢方処方を教えてから、薬局の薬を見直したかもしれない。病院の薬に比べて鋭さでは引けをとるが、利用の仕方によっては結構重宝する。何よりも自分で自分の簡単な病気くらい治すと言う、当たり前の行為が貴重だ。