報告

 今日、嬉しい報告を聞いた。
 2週間くらい前に、両親に連れられてきた女子中学生がいた。新米不登校で、心配した親が息子の診療所を訪ねた。その少し前に、漢方の処方箋をもって来た母親に、お嬢さんのお役に立てる漢方薬もあるかもしれないから息子に相談したらと勧めていたのだ。そこで息子を訪ねたのだが、息子が僕のところに行くように勧めたらしい。
 元々息子の患者さんだから、僕が勝手に治療をするのがはばかれるから行くように勧めたのに結局は戻ってきた。無駄なことをさせてしまった。ご両親は当然お嬢さんを学校に行かせたい。で、お嬢さんはと言うと・・・
 お嬢さんの正直な気持ちを聞いた。色々な思いを教えてくれた。中学生ともなると結構話す事が出来て、楽しかった。と言うのはその子の本来持っている性格か、話していてとても相手を心地よくさせる力が強いことを感じた。本来なら問診をして処方を決めればいいのだが、親の前でいっぱい話をした。そして途中から僕は気がついた。この子を治すなどと言うのはおこがましくて、今もっている個性を是非持ち続けて欲しいと思ったのだ。何も変える必要はなく、何も変ってほしくないと思った。このままの個性を持ち続けることが出来ればこの子はどれだけの人たちを将来幸せにするのだろうと思った。
 そこで僕はご両親に、飲ませる漢方薬はないこと、素敵なお嬢さんを持って幸せなことを告げた。親としてはお嬢さんの青春の戸惑いが早熟のように思えたみたいだが、僕は人間性だと思った。本人にも何度も告げた。あなたはとてもすばらしい人、相手をとても幸せに出来る人、おじちゃんは今日とても幸せで、ご両親が羨ましかったことなどを。そして病院に戻って息子に「とてもすばらしいお子さんで今のままでいいと言われた」と報告するように親に言った。きっと息子も喜ぶと思った。恐らく中学生に薬物治療などしたくなかったのだと思う。だから僕のところに来させたのだ。
 今日母親が処方箋をもって来た時に「娘が翌日から学校に行っています」と教えてくれた。学校に行くようにとは一言も言わなかったし、暗にほのめかすこともしなかった。「学校へ行きたくないの?」と本音を尋ねただけだ。着地点を決めて話をしないことに僕は決めていたから、その子が降り立った場所は100%自分の判断だ。授業は面白くなくても、学校は面白くなくても知識を得る事は楽しい。それが分かってもらえたのだと思う。