失念

 警察官においでおいでをされ広くなったところに車を誘導されてもなんら動揺をすることはなかった。もう随分と長い間、無事故無違反だから、うぬぼれで何かキャンペーンでもやっているのだろうと余裕で車を警察官の傍につけた。すると警察官がなにやらバインダーを正面に構えて書き込もうとしたから、キャンペーンでなく何か僕が不都合を起こしたのかなと言う懸念が頭をよぎった。しかしその時点でもなお僕には余裕があった。僕が交通法規を破るはずがないという長年の自信だ。ところが、警察官が僕のそんな自信を見透かしたかのように「後部座席の方がシートベルトをしていません」と呼び止めた理由を教えてくれた。
 専門用語か役所言葉かしらないが、こういうのを失念と言うのだと思う。数年前、税務署の方が調べに来た時に、ほんの些細なミスを見つけられた。その時に始末書を書かされたのだが、無知と書いたら、失念と書きかえさされた。その時失念と言う言葉を初めて聞いた。高速道路上では、後部座席の人もシートベルトをしなければならないという規則があることを今日初めて知った。悪意はなく法律が変ったことを知らなかっただけだから、正に失念だと思う。読者の方で知らない方もいると思うので詳細を書いておくが、1点減点で罰金はなし。点数は3ヶ月で復活し、ゴールド免許の資格は失うらしい。この程度で済んだら儲けもので、後部座席に陣取っていたかの国の女性たちのほうが怖がっていた。何故なら、かの国では交通違反をしたら、取り締まった警官にその場で金を渡すそうだから。サインをし指紋を押しただけで許されていたのを見ていて不思議がっていた。
 取り締まりに会った事は別として、いつか後ろの席の人間もシートベルトを装着するように頼もうと思っていたのでよい機会になった。あれだけインパクトが強ければさすがに彼女達も気をつけてくれるだろう。
 もう10回以上姫路城の中に入っているので、かの国の女性達だけで見学するように促して、出口辺りで待っていたら、結局3時間近く待たされた。薬の情報誌を持参していればよかったと後悔した。その間、生暖かい空気に包まれて、妙に新しい靴を履く東南アジアの人と、武士の格好をしたボランティアと一緒に写真を撮ってもらっても挨拶もせずに立ち去る白人とを交互に眺めていた。ブントッ(まあまあ)な春。