条件

 途中から見たので詳しくは分からなかったが、田舎に移住した人が何組か出てきて、「田舎の人は人が良くて親切」と異口同音に言っていた。田舎の人はと先につくところを見るとIターンかもしれない。Uターンならそんなこと当たり前すぎてあえて口には出さないだろう。
 田舎の人は親切だとか人が良いなどと聞くと、都会の人はそんなに薄情で悪人かと思うが、おおむね人は田舎も都会も善良だろう。ただ、時に好ましからざる人物が出て、評判を落とす。その割合は都会のほうが多いかもしれない。何故なら田舎ではその手の人は暮らすことができにくいからだ。まず隠れ場所がない。そして稼ぐ場所もない。何処に誰が住んでいるかなどわからないはずがない。夜行に徹すれば隠れることは出来るかもしれないが、そんな生活をしていれば命を削る。早死にしたくて田舎に来る人間はいないだろう。美味しい空気を吸い、美味しい水を飲み、太陽の恵みを頂いて暮らすために来る。夜行性なら都会で十分だ。眠らない街で起きていればいい。
 稼ぐところもない。田舎の人間は不器用だから全うに働いて、稼いだ分だけで暮らす。悪智恵を働かせて金を稼げるような暗闇はない。正当な労働の対価だけだ。その代わり捨てるくらいお金を使えるところもない。入る金もそこそこ、出る金もそこそこ、そうして歳月は過ぎていく。いい人であろうと意識することもなく、いい人であり続けれるのだ。分相応。それが自然に受けいられる所だ。虚構の生活を求めなければ、偽らなくてすむから力むことなく暮らすことが出来る。いかつい格好をすることもないから誰にもやわらかく接することが出来る。
 人が良くて親切は、都会の人から見ると移住の必要条件であっても十分条件にはなりえない。ただ田舎の人間に数式は要らない。何故なら人が良くて親切はそもそも無条件なのだから。