雲辺寺

 冬用のタイヤを履かずに行けるスキー場があれば、かの国の女性たちの願いを叶えてあげることができる。そうした思いで探していたら見つかるものだ。何と四国にあった。それも僕が和太鼓でしばしば行く町の近郊だ。
 勝手知ったるだから心理的な負担は無かった。ただ、山頂に上がった時に気温を見たらマイナス6度だった。恐らくそのような気温を体感したことはないと思う。それだけでも印象深い一日になれるのだが、雲辺寺の山頂から見た瀬戸内の町と海の景色はすばらしかった。つい眼下に瀬戸内海が広がるのに、標高1000メートルもあることがにわかには信じがたかった。しかし、高速のロープーウエイでどんどん上っていったこと、山頂は雪が積もっていて、歩くのも怖いくらいだったことを考えると正に別世界だった。温暖を誇る瀬戸内にある唯一のスキー場かもしれない。
 かすかな記憶だが、スキーに行くのは何かと面倒だ。今日もやはりスキーやウエアを借りるのに随分と手間取った。言葉が通じない4人をフォローするのは結構大変だった。僕がスキーに精通しているのならそこまで大変ではなかったかもしれないが、なにしろかつて1度挑戦しただけですぐに諦めた実績の持ち主だから頼りないものだ。やっとこなせたようなものだが、結果的には良い経験が出来て又ひとつ苦手意識を克服できたような気がする。
 雲辺寺はスキー場ではない。本来はお寺さんだ。雪に行く手を阻まれてほんの少ししか足を踏み入れることは出来なかったが、季節を選んで又訪ねてみたいと思わされた。
 巡礼の人たちと、スキー目当ての人たちがともに乗り合わせるロープーウェイ。どちらかと言うと前者に属しそうな年齢の僕だが、引率と言う役割だけで後者に属する。前者で貰えぬおかげを、後者で頂く。