杵柄

 又もダメ押し。もうほとんど留めに近い。受け入れるのにも抵抗感がほとんど無くなった。次は何だ!
 つい最近まで「何処まで泳ぐことが出来るかわからない」と豪語していたのは、水の上に浮かんで体力の消耗を防ぐことが出来るからだ。疲れたら泳ぎをやめ又体力を回復したら泳げばいい。だから実際どのくらいまでの距離を泳ぐことが出来るのかわからない。面倒で「何処までも泳ぐことが出来る」などと単純化して答えていた。でもこれは実際海の子だったら普通のことで、まして海水は浮きやすいから、あながちホラを吹いているわけではない。ところがそれはホラだと今日思い知らされた。
 筋骨が衰えていることは外見や日常の動作で身につまされていた。それどころか内臓は、かなり危ないところまで来ていることも分かった。内蔵は漢方薬を飲んでみることにしたが、筋骨に関しては鍛えるしかない。体を傷めないように、それでも負荷はかかるようにとなると水泳が一番いいのかと思った。そこで我は海の子だから、得意でもあることだしプールに行ってみた。寒いからか、元々その程度か分からないが、数人が泳いでいただけだった。他人に遠慮せずに悠々と泳ぐことができるのは気持ちいい。ところがいざ30年ぶりくらいに泳ぎ始めたら水が重たかった。まず自然に平泳ぎと思ったのだが腰に予想外の負荷がかかった。クロールもなんだか息遣いが嘗てのように自然にできない。仕方なくひっくり返り背泳ぎをしてみたが、手を大きく後ろに上げるのが意外と負荷がかかる。仕方なく昔海でやっていたように、浮かんだまま時々バタ足で進むようにした。
 温水プールと言っても、泳がなければ意外と寒い。ところが連続して泳ごうとするとなんだか心臓がしんどくなる。明らかにエンジン部分に負荷がかかる。嘗ての感覚で泳ごうとするが息苦しさで怖くなり、すぐに泳ぎを止めてしまう。結局25メートルプールを切れ切れに何往復しただろうか。若い女性のコーチがプールサイドを行ったり来たりしているが、その意味がわかった。そしてプールに入りたいと言った時に、受付で色々尋ねられた意味も分かった。往年の経験でつい頑張ってしまう人がいるのだろう。僕もそのタイプではあるが、ブレーキを踏むことを躊躇ってはいけないと思って、30分くらいで水から出た。
 その後早々に帰宅したが、帰宅途中も帰宅してからも暫く最近経験したことがないような軽い動悸と倦怠感に襲われた。これでは意図したことと真逆だ。筋骨を少しでもつけようとしたのだが、下手をしたら寝込みそうだった。休日なのに覚醒するようなドリンク剤を栄養剤に混ぜて飲んだ。やっとこの時間になって体力は回復したが、昔とった杵柄は朽ち果てていた。