没落

 いくら可愛いと言っても所詮は他人だ。僕はがらんとした巨大渡り廊下で薬の専門誌を読んでいた。わが子ならこうはいかないだろう。いつものように、日ごろ読めない、読みたくない薬の情報誌を片付けるために目を通す。今日もそのためには絶好の日だった。だからまだ試験が終わる時間でもないのに一人又一人と試験会場から出て来だした時は慌てた。2階から急いで降りて、正面ゲートあたりに陣取って、待ち構えた。ゲートには僕みたいに受験生を待つ人が数人いたが、どう見ても介護施設の職員や経営者か専門学校の先生らしき人だった。僕が他の人にどうみられるかはわからないが、立場上は父兄だ。
 コンベックス岡山で、介護福祉士の国家試験が今日行われた。同居しているかの国の女性二人も受験した。日本語の壁と経済の壁の両方に阻まれながらも、どうにか受験にこぎつけた。午前の部の試験は簡単で午後のは難しかったと二人で話していた。もう就職先も決まっているから、是非合格したいだろうが果たしてどうなのか、そこが正に他人で、祈るような気持ちにはならない。僕は困っている人には俄然手を差し伸べたくなるが、困っていない人には結構冷静だ。この二人だって、前の保証人とのトラブルで在留資格を失いかけたから助けただけで、今の状況では恐らく手助けはしていなかったと思う。何事も、自分で出来るだけの算段はつけれるようになったのだから。
 寒さで体温を奪われながら、多くの帰路につく人たちを見た。ほとんどは若者だったが、時にかなりの年配者もいる。40年薬局で人を見、多くを語り合った経験で言うのだが、見るからに介護福祉士に合わないだろうと言う人も居た。介護の仕事は重労働で忍耐を要する。この様子でその仕事が出来るのかと思わせるような人を結構見た。多くはその反対で、見るからにその職業にあっている優しい雰囲気をかもし出しているが。外国人の手を借りなければ成り立たないこの分野だが、今日多く目撃した若い日本人の生活基盤が保障されるようなシステムにしてもらいたい。外国人に日本のお金を持って帰らせるだけでは、早晩この国は没落する。、