神庭の滝

 女性が大きな声を出して感動する様子を雄叫びと表現して正しいのかどうか知らない。しかしそれはまさしく雄叫びだった。僕自身も予想していなかったから何の演出もしないで、その光景の中に飛び込んだ時のこと。  昨日久世町の第九のコンサートには4人のかの国の女性を連れて行った。2人は1年前に来日。1人は来日して3ヶ月目で3年間日本で働く。後の1人は来日して1ヵ月半で、あと1ヶ月で帰国する短期の応援部隊だ。誰もまだ第九を聴いていないから僕の出席簿で選ばれた人たちだ。  第九だけでは片道2時間の行程がもったいないので秘かに神庭の滝に行くことは計画していた。勿論彼女達には内緒で。気温は低かったが結構日差しも強くて、高速道路の雪のための速度制限がピンと来なかった。ただ、僕は北国を走ったことがなかったので、正直恐る恐る北進した。ところが対向車線からやって来る車で雪をかぶっているものはない。それと前方に見える中国山脈の山々も雪をかぶっていない。だから結局は高速道路で勝山まで行った。  主要道から神庭の滝に通じる細い道に入ったときも雪はほとんどなかった。ところが入り口から数百メートル辺りで一瞬にして雪景色に変わった。雄たけびが聞こえたのはその時だ。切り立った山の中に滝があるから、前夜降った雪がそのまま残っていたのだろう。木々が見事に雪の花を咲かせていた。もうそこまで入り口が見える辺りまで車で登ったが、降りて確かめてみると道路が凍っていた。空き地を見つけて駐車したが、彼女達は早速雪のボールを作って遊び始めた。人生で初めての雪なのだ。それも県南の牛窓では運がよくてもぱらぱらと降る雪くらいしか経験できないから、雪国の様な光景に歓声を上げるのも当然だ。岐阜に5年間住んでいたこの僕でさえ綺麗だなあと思った。神庭の滝は夏に行った事があるが、断然冬の、それも雪景色がいい。何倍も美しい。おまけに雪のじゅうたんの上を餌を求めて集まってくるサル達の自然な行動もよかった。目を見ないでと注意されていたが、それさえ守ればあたかもすみ分けている動物同士のような感覚になった。  一体どのくらい沢山写真を撮ったのだろう。予定時間を大きく超えてコンサートに遅れそうだった。国に帰ったら自慢するそうだ。ちょっとした演出だったのだが、天の神様が手を貸してくださった。