濃度

 僕より8歳も年上なのに、その行動力は大したものだ。以前も同じような方と話をしていて、えらい負い目を感じたものだ。  朝一番に処方箋を持って入ってきたから、それも岡山市の方で1時間くらい離れたところに住む人だから、活動のスイッチが入る時間が早いことが分かる。そのことを伝えると、とにかくじっとしている事が嫌いなそうだ。痴呆で施設に入った姉の家を守するために牛窓にしばしば来るのだが、その上放置された畑の世話までしている。もともと牛窓の人で農業も子供の時には手伝っていたから根っからの素人ではない。結構いろいろなものが採れるそうで近所の人に分けてあげるのも楽しみのひとつらしい。このあたりの話で別に負い目を感じるわけではない。問題は次だ。  最近になって僕も県外まで車で出かけることは増えたが、それでも基本は交通量が少ないところを選んでいる。ところがその方は、僕なら当然電車と言う県外までしばしば運転して出かけているそうだ。「運転が好きなんでしょう?」と尋ねると、正にそのとおりで「楽しい」そうだ。やはり僕みたいに「仕方なく派」ではない。根本が違う。だからエネルギーも出るだろう。そんな彼がつい最近経験した話をしてくれた。さすが好きな人は違うと思わされた内容だ。  ある日信号待ちをしていたら、後ろから路線バスがスピードを緩めることなく近づいてきたらしい。それに気がついた男性は、すぐ車を交差点に5メートルくらい進入させたそうだ。すると後ろでバスが急ブレーキをかけて止まった。彼が5メートル逃げたおかげで追突されなくてすんだ。それ以上進入していたら横から青信号で進入して来る車とぶつかるから、そこまでしか逃げれなかったと言った。信号待ちで後ろをみる癖があるのかどうか分からないが、とっさの判断で身を守った。  車をしばしば運転する人はそこまで気をつけなければ事故に遭遇する確率が高くなるのだろう。僕にはその習慣がないから少し参考にさせてもらう。乗らないのが一番といわれるが、いたずらに行動範囲を狭める必要もない。それによって得られる体験や知識は馬鹿にならないだろうから。好きこそもののと言われるが、そうしたものを持っている人は時間の濃度が濃い。  「よし、僕も!」と思わせる朝一番の会話だった。