希望

 ある町から漢方薬を取りに来てくれる人が、牛窓に住みたいと言う人を連れてきてくれた。東京の人だが、いつかモーターボートの故障で立ち寄った町が牛窓で、その印象がよかったので引退後は牛窓に住もうと決めていたらしい。何がきっかけになるかわからない、面白い経緯だ。  その方の希望を聞くと、海は見えるに越したことはないが、海岸近くでないほうがいい。小高いところがいい。平屋の古民家を買い取りたい。土地はある程度の広さが欲しいが馬鹿広くないほうがいい。  この程度の希望だから恐らく簡単に手に入るだろう。東京でマンション暮らしだから、そこを貸して引っ越してくる予定らしいが、つい最近僕が手に入れた土地と建物を見せてあげた。小高い丘の上にはないが、古民家だけれど2階建てだが、土地は馬鹿広いが、取得する金額的な目安になるだろうと考えたからだ。数字を教えると東京の方も、紹介してくれた方の奥さんも驚きの声を上げていた。そう、あまりにも安いから。東京でこの土地を手に入れようと思えば当然数億円だろう。だが今や牛窓をはじめ多くの田舎は、主をなくした家や、都会から帰るつもりのない主などの理由で、土地も家も余り放題だ。手放したい人は一杯いる。僕は偶然近所の気心の知れた人から手に入れたから、手続きなど簡単で和気藹々と進んだが、そこさえクリアすれば手放してよいと思っている人は一杯いるはずだ。  ずっと暮らしていれば華の都大東京も老人にとっては負担がないのかもしれないが、この青い空の下で綺麗な空気を吸いながら、ゆっくりと自然の刻む時間に従って生きるのもいいのではないか。命が、健康寿命が延びるのではないか。肉体も精神も酷使しながらではしんどいだろう。人間の作る時計に従うのは現役のときだけでいい。晩年は自然が刻む時間に従ってみてはどうだろう。生かされている事が実感できるのではないだろうか。

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