奇遇

 奇遇もいいところだ。この奇遇を何か運のいいことに生かせれたらと思うのだが、そういった運には縁遠い。  かの国の人たちは、来日する前から桜と紅葉はしっかりとインプットされていて、とても楽しみにしている。予定が詰まっているのでなかなか全ての子を連れて行くわけには行かないが、今日は第二陣として4人を連れて行った。毎回同じところでは僕が持たないので初挑戦の近水園に行くことにした。インターネットで調べると紅葉の名所らしくて、近くに足守と言う、昔の面影を残した町並みがあるらしい。運のいいことに今日はその足守で町おこしのイベントがありジャズのコンサートも行われることを知った。だから1時間ほど紅葉を眺めてその後コンサート会場に行けばいいと予定していた。  ところが出かけてみると意外に近くて30分ほど早く着きそうだった。そこで機転?を利かせて吉備津神社に寄った。吉備津神社も結構かの国の人たちは喜んでくれる。あの長い下りの廊下が好きらしい。いつものように写真を撮り捲った。そのおかげで近水園は当初の予定通り1時間コースとなりそうだった。河川敷の駐車場に車を置いて近水園への道を歩いていると、向こうから結構大きな集団がやってきた。10数人いたと思う。5メートルくらいの距離に近づいたときにどちらからともなく歓声が上がった。そして数人が抱き合った。何と三原工場のかの国の人たちと、牛窓工場のかの国の人達が出会ったのだ。抱き合った子達は、かの国で一緒に働いていた人たちで、日本の数箇所の工場にばらばらに配属されたってことだ。だから長い人では3年ぶりの子達もいた。道端で歓談すること数分、ある女性がまじまじと僕の顔を覗きこんで「見たことがあります」と言った。僕はかの国の女性を100人近く知っているが、会っている人は必ずわかる。だから面識がないことを伝えると怪訝な顔をして考え込んでいた。そしてすぐに思い出したみたいで「〇〇ちゃんと〇〇〇さん知っていますか?」と尋ねてきた。当然一緒に暮らしているから知っていると答えると「おとうさんですね。いつも写真で見ています」と綺麗な日本語で答えた。なんと、かの国で2人と友人だったらしくて、1週間前にも電話で話をしたそうだ。だから僕にも彼女達と同じような偶然が起こったのだ。  近水園はさすがに名所としてインターネットに載っていただけあって、池を中心とした庭園と紅葉が程よくバランスを保って美しかった。紅葉が景色に勝っていないのが良かった。なるほどこれなら広島県の三原からやってきても不思議ではないと思った。人が少ないのもまたいい。もっと言えば無料なのがいい。  帰りは酒倉を改装したコンサート場でのジャズバンドの音楽を楽しんだ。至近距離で聴けて楽しかった。かの国の女性達は全員初めての経験らしく「ザズ ハジメテ」と何回も言われた。よほど楽しかったのだろう。  帰宅し車を降りた瞬間からすごい倦怠感に襲われるが、あの喜ぶ姿を思い出すと、やはり余計なおせっかいをし続けないといけないかなと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=egRX_YSYU7A