強面

 だいたい社会の静脈系の仕事をしている人は強面が多い。その昔、結構きわどい仕事をしていたような人も多く、叩けば色々なものが出てきそうだ。ただし僕はそういった人種が嫌いではない。むしろそこから一念発起して表の顔を立派にした人も多い。そういった人は人間としての幅を持っているから、結構馬が合うことも多い。  今回隣家を買い、かの国の実習生の寮として使ってもらうにあたって相談した人もなんだかその種の人間だ。強面のくせに楽器を吹いたり弾いたり出来る人で、そのアンバランスが面白い。そんな彼が解体屋さんを紹介してくれたのだが、これが輪をかけたようなその種の人で、発注しているこちらのほうが恐縮しそうだ。ところがいざ作業が始まると意外に繊細なところがある。それが一番顕著に現れたエピソードを紹介しようと思う。  明治時代の納屋を壊そうとしたのだが、その傍に井戸があった。僕は危ないし利用することもないから埋めてもらうように頼んだ。ところが解体屋さんも紹介してくれた人も何故か即答しなかった。そんなに技術的に難しいか費用がかさむのかと思っていたら、井戸を埋めると悪いことが起こるのだそうだ。解体屋さんは具体的に「腰から下の病気になって歩けない人が多い」と言った。だからもし埋めるならパイプを通して井戸が息をすることが出来るようにしたほうがいいと教えてくれた。僕にはまるで冗談のようにしか聞こえないが、2人とも真顔だ。紹介してくれた人は井戸を掘る会社を経営しているからプロ中のプロなのだが、そんな彼でも「何時代じゃ~」と言ってやりたいような事を言う。「震災後、井戸を掘る人は増えたけれど、井戸を埋めてくれと言うような人はいない」とも言っていた。こちらのほうは説得力があるが、下半身の病気は信じがたい。ただ、ああいった自然相手の仕事をする人は、そして危険な作業を伴うような人は、そうしたことに拘るのかもしれない。何かあったら何かのせいにしないと辛いだろうから。  結局その井戸は水道式にしてより便利になって復活することになったが、これで下半身の病気にはならなくてすみそうだ。それにしても最近の冷え込みで腰が痛くなることが多いから、慎重に体をほぐしてから行動するようにしている。これで痛くなったら「怒るで~」