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 つくずく惜しいと思った。縁がその頃なかったと言えばそれまでだが、おそらく現在もそのような目に会っている人は多いと思う。  ある青年の過敏性腸症候群のガス漏れがかなりゴールに近づいた。漢方薬をどうすればいいのかと言う質問で、僕は自由にしたらいいと答えた。自信があればゆっくりと減らしていけばいいのだ。1日3回の薬を2回にし、そのうち1回にし、ゼロにすればいいのだ。大概の人は、そのようにして完治を手にしている。ただ、彼の場合歯切れが悪い。10の症状が2くらいに減っているのだから本来は漢方薬を減らす段階に来ている。まだ2ヶ月くらいでここまでなっているのだから完治は時間の問題だ・・・と言いたいのだが彼の場合は事情が少し違う。と言うのは、先々月僕に相談してくれる5年前から、いわゆる抗ウツ薬と精神安定剤を飲んでいるのだ。過敏性腸症候群の効果が何もないのによく飲んだものと感心するが、多くの人は彼と似たり寄ったりなのだ。何年も頑張って、その挙句僕に接触してくれる人は大なり小なり精神病薬の経験者だ。見切りを付けた人もいるし、そこから抜け出せれない人もいる。彼の場合も今度は2種類のその種の薬の離脱を目指すことにした。既に1つのほうは半分に自分で減らしているから、いずれは可能だろう。急に辞めるとリバウンドが来るから気をつけたほうがいい。  それにしても製薬会社のもくろみは当たっている。効果が全くなくても5年間も欠かさず飲んでくれる人が五万といたら笑いが止まらないだろう。どうしてこんなに安易にその種の薬が出されるのか僕には分からない。多くの人がそれで救われはいるが、一方で多くの人がそれから逃れなくなっている。同じ薬で相反する人が出るのも仕方ないとするのか。青い空の下で風に当たりながらのんびりと暮らすことが出来れば全員治ってしまいそうだ。生産性ばかりを要求され、常に数字で管理され競わされたら、体のどこかを犠牲にして生き延びようとする。正に過敏性腸症候群もその病の1つだ。心の悲鳴が形を変えているだけだ。心の病気を治すのに、頭の薬ではダメだろう。僕には心と頭が同じには見えない。