業界

こんなに心境が違うのかと我ながら驚いた。僕が冷たいのか。  向こうでは、看護師だが日本ではその資格は使えない。介護士として働いている。ところがこの介護士と言う職業は肉体的にかなりの重労働で、骨格系を傷める人が多い。若くても同じで、それが理由で退職する人も多い。彼女も2年間頑張ったが限界を感じたみたいで国に帰ることにした。  今日挨拶に来たのだが、仕事中だったので相手が出来ずにもっぱら妻が2階で応対した。結構長く話していたみたいだ。ひょっとしたら2時間くらい降りてこなかったのではないか。その後、薬局の相談机に妻が腰掛けさせて僕と少しばかり話をしたが、いつものようにこみ上げてくるものがなかった。かの国の女性達と半年毎に別れの儀式をこの10年繰り返しているが、毎回寂しくても涙を見せれない結構な苦行だ。思い切って泣いて見せれば後々楽なのかと思ったりするが、そういう風には育てられていないので涙は見せられない。もしかりに僕が先頭を切って泣いたりしたものなら、その場が収まらなくなるだろう。ところが今日はほとんど寂しいとは思わなかった。妻に促されて一緒に写真も撮ったが、恐らく自然な笑顔で写っていると思う。いつもは笑顔を促されて悪戦苦闘するのだが、今日は全く自然に笑顔が出た。  この差は恐らく以下のような理由による。半年毎に帰っていく女性達は、ひたすら働く為に来ている人たちだ。出来るだけ多くの残業を望み、休日には棒のように眠る。それを覚悟で来ている人たちだ。だから僕が案内しない限り、せめて岡山辺りまで出かけてウインドウショッピングをするくらいが落ちだ。片や、今日挨拶に来た人は一応自由を与えられているから、稼いだお金で結構遊んでいる。彼女は韓国にも旅行している。僕は歌舞伎や和太鼓やベートーベンなどに連れて行ったが、果たして本当に文化に触れることを望んでいたかどうかは疑わしい。むしろ、懸命にどこにも行かずに働くグループの人たちに1回でも多くそのチケットを回せばよかったのではと思ったりした。  以前にも書いたが、薬剤師の仕事は病気の人の役に立つこと。必ず相手はその瞬間だけでも体調に不安を抱えている。そうした人と接し続けているとハンディーがある人の力になりたいという気持ちが鍛えられる。もう反射と言ってもいいのではないか。だから、1持間でも多く残業を望み国の両親に送金したり、残してきた家族に送金する方に肩入れしたくなるのは当然だ。元気な人より病的な人を、金持ちよりは経済に恵まれない人を、強い人より弱い人を身近に感じるのは職業的に当然なのだ。  ところがわが薬剤師会は、他の日本のあらゆる業界と同じくアホノミクスなどの強くて汚い人間を支持する。理由は簡単だ。票を提供して見返りをもらうためだ。大手調剤薬局の隆盛や門前薬局の増殖を見たら、いかにアホノミクスに票をやることが美味しいかよくわかる。政治とは美味しいものだ。魂を売りさえすればこんなに税金が還流して財布に入ってくる。労働者や非正規の人達はそんなからくりを知っているのだろうか。業界を作って票をまとめて提供すればこの世は極楽。その恩恵にあずかれない人は地獄。懸命に働いて税金を払うだけ。見返りは腰の痛みか胃潰瘍か心の病。からくり、からくり、からくり、からくり・・・