伝承

 毎月水道のメーターを検針してくれるオバちゃんが娘に、「水道代が一気に上がっていますが、どこか漏れているんではないですか?」と尋ねたそうだ。夏に駐車場の花壇にしばしば水をやったそうだが、その比ではない。心配になって業者に調べてもらったらやはりどこか漏れているという答えだった。どこかは確定できなかったから、大きな工事になると言われた。水漏れを放っておくわけにいかないから依頼していたら、今日既にその会社を定年で辞めた人がやってきた。その人は水道一筋の人で、ヤマト薬局の生え抜きの利用者でもある。父の代からずっと薬を飲んでくれている人で、熱心に体調を管理される人だからある病気を完全に克服した。あの時代に天然薬だけでそのトラブルを解決するのはありえない話だろうが実際彼はやり遂げた。僕も牛窓に帰ってからの付き合いだからそれを目撃している。自然治癒力を呼び起こすって大切なことだと教えてもらった良い例だ。  その彼が辞めた会社から急遽要望されて、若手のスタッフとともにやってきた。そして数日前に若手が2人がやったように、長い金属製の聴診器みたいな機械で水の音を随所で聞いていた。そしてスタッフにあたかも教えるように具体的に説明しながら推理していた。何度も推理に行き詰りながら、段々詰めていったみたいで、最終的には天井裏に入りたいと言って、即席に入り口を作って、この中に入れるのと言うような狭い空間に潜り込んでいった。天井裏で音をさせながら頑張っていたが、確信を得て出てきた。汗を一杯かいていた。彼が現役の時にしばしば疲労を訴えてやってきていたが、その理由がわかった。もし同じ事を真夏にやるとしたら、消耗は想像を絶するレベルだろう。僕には到底出来ない。  それにしても彼を呼ばなければならないくらい知識や技術が伝承されていないことに驚いた。小さな田舎の会社だからと言う事情もあるだろうが、このようなことは恐らく日本の多くの現場で起こっていることだと思う。彼抜きで判断され、物事が進んでいたかと思うとぞっとする。無用な工事も行われていただろうし、下手をすると余計ひどくなることもありえた。同業者ではないが、大切な問題点を示唆された一日だった。

https://www.youtube.com/watch?v=wD0KdshjQ54