、面接

 いつもの薬をとりに来る時間帯と違うので「どうかしたの?」と尋ねると「失業中」とだけ答えた。なるほどそれなら分かる、世間ではまだまだ人は働いている時間帯だから、ラフな格好で現れる理由としてはありがちな話だ。元々今の仕事がよく続いているなと思っていたから、失職中と言われても抵抗はない。もっともな話だ。もともと働いているほうが何となく不釣合いだったのだから。  「今さっき、面接に行ったばかりなんじゃ」と言うから「どうだったの?」と尋ねると「面接官がへんな顔をして、う~んと首をひねった」と自信なさそうな顔をするから「当たり前じゃあ!BMの新車なんかで行くから、向こうがびっくりするじゃろう」と言うと「これしか持っていないんじゃ」と言う。「誰かに、軽のトラックでも借りていけばいいのに」と言うと「やっぱりそうかなあ」と残念そうな顔をした。  よほど、今日面接を受けたところに行きたかったのだろうか、結構残念がっている。「自分の車を見たら面接官のほうが自信をなくするわ。印象悪いに決まっとろうが!」と言うと「やっぱりそうかなあ」とこれまた理解不能状態だ。  嘗て野球で言うとライトを守っているような人間だったから、どうも飾り物が好きだ。金があるのかないのか分からないがやたら光らせている。弟と同級で、結構僕のことを親しく呼ぶので、僕も言いたい放題だ。その道の人間とはかかわりたくないのが当たり前だろうが、僕はいとわない。どうでもいいのだ。こういった人種は結構身体には繊細で気が小さいのが多いから、何でも言ってくれる僕は重宝らしくて、結構利用する。怖がって当たり障りのないことしか言わないところだと、彼らには不都合なのだ。御法度の裏街道を歩くにも健康第一だから、悪いことは悪いと言ってくれる人間のほうが彼らも都合がいいのだ。  薬を持って出て行く後姿を眺めながら、「あの車であの顔では、面接官がビビルわ!」と僕が言うと娘も笑っていた。人生どうにかなるものだ。