鉄砲隊

 考えてみればジャズをまともに聴いたのは初めてかもしれない。高校時代、下宿の同級生が熱狂的なジャズファンで、別世界の人のような印象を持っていたが、当時、ジャズを聴く能力がある人を若干尊敬するような風潮の中で暮らしてきたから、ジャズは無視できない存在と言うまるで音楽とは関係ない距離感を保っていた。そんな僕が一気に変わったのは、アリナミンの宣伝でサクスフォーンによるテイクファイブを聴いてからだ。あの軽快な音楽は1度聴いただけで僕を虜にした。もう30年くらい前になるのではないか。それ以来ジャズは身近になった。なんら特別なものでなく、自分が心地よければいっぱしのジャズファンでいればいいのだ。肩の力を抜いて聴くと多くの心地よいジャズに出会えた。  高松市国分寺町は、毎年聴きに行く和太鼓の集団「讃岐国分寺太鼓保存会」の本拠地だ。今日の「LOTUS POSITION with山下洋輔」のコンサートを主催したのも恐らくその団体だ。誰が嘗てこのような仕掛けを作ったのかしらないが、大きく育つものだ。人材がいない、見つからない僕の町とは大違いだ。  それにしてもジャズファンの年齢はすこぶる高い。僕などひょっとしたら若い方かもしれない。戦後進駐軍が改めて持ち込んだとしたら、確かに聴衆は高年齢なはずだ。そして彼らは元気がいい。僕の奇声も多くのファンに引けをとった。激励の奇声も必要にないくらい多くの人が声援を送っていた。連れて行ったかの国の女性の中の一人が最初から大きな声を出していた。クラシックか和太鼓しか連れて行ったことがないから、日本古来の楽器、尺八を吹く小演明人やドラムを叩く堀越彰の正確なテクニックに感動していた。山下洋輔のピアノが押され気味に聞こえたのはマイクのせいだろうか。  他者のための小さな親切が自分に返ってくる、そんなことを思い起こす1日だった。瀬戸大橋を渡り定番の丸亀城を案内したのだが、丁度鉄砲隊の射撃が行われるところに出くわした。よろい姿の男達が並んで打つ姿は、その時代を髣髴させた。耳をふさいでおかなければ心配なくらい音はすごかった。男たちと言ったが、一人女性が混じっていて、白装束がかの国の女性達の興味を引いたみたいだった。生のジャズの迫力とテクニックとあわせて、今日僕が経験させてもらい感動をもらった2つの出来事を堪能した1日だった。