答え

 この話は文句なしの幸せな話。僕の薬局では滅多に聞ける内容ではない。感動の話ではなく、世の中にはこうした環境で暮らしている人もいるのだと言う、それだけの話。  そもそも岡山市の人が僕の薬局に相談に来たのも、その家庭環境のよさによる。嫁が偶然牛窓に食事に来た時に僕の薬局を車の中から見ただけで、義母に勧めたのだから、珍しいことこの上ない。車から見ただけで勧めるこだわりのなさ、義母を思う気持ち、どちらが欠けていてもありえなかった。そのお嫁さんの期待に応えることができて、義母のある症状が数ヶ月ぶりに治まった。病院しか知らなかったみたいだが、漢方薬と言う未知の世界を嫁の勧めで開拓し、今ではすこぶる元気になってくれ、遠くからわざわざ自分で運転してやってくる。  80歳を過ぎているのに、頭も身体もしっかりしている。数日前に、あるスーパーに帰省中の息子の家族と買い物に行った。そこに偶然ピンクのかわいい車が展示してあったらしい。それを見て女性は無意識に「おばあちゃんは結局こんなかわいい色の車に乗ることがなかった」と漏らしたらしいのだ。それを聞いていたお孫さんが「おばあちゃん、ピンクの車を買いなよ」と言ってくれたらしい。2人の会話を聞いていた息子さんが翌日には車の販売店に連れて行ってくれたらしい。「明日、車が来るんです」と言う話からこのいきさつを話してくれた。  どういう風に育てたらこんな絵に書いたような家族が持てるのかと尋ねたかったが、空しくなるので止めた。最近つくづく思うことがある。人生っていつ頃ピークを迎えるのが一番幸せなのだろうかと。若いときにピークを迎え、活躍できれば後は仕方ない・・・壮年期に社会的な地位や経済的な安定を得られればそれが一番幸せ。老年期に大切にされ、健康で過ごす事が出来れば一番幸せ・・・・凛として僕の正面に腰掛けるその女性を見たら、答えは自ずと分かってくる。