反則

 かなり深刻な顔をしてやってきた。それはそうだろう。53kgあった体重が丁度40kgに減ったのだから。体重減の原因が思い当たらなくて、と言うより原因を見つけてもらえなくて、僕みたいな田舎の薬局を訪ねて来た。不安感が前面に出ていて、帰るまで笑顔はほとんど出なかった。  笑顔が出ない人は僕の中では要注意。薬の効果が出にくい人だ。ついでに言うと、お金をもらうのも気が引けるくらい薬が効かない人は、薬を飲むとどんなにすばらしいことが起こるかを話題にすることなく、副作用が出ないですかと尋ねる人。「一番の興味がそれか?」と尋ねたいくらい、何のためにやってきたのかわからないから、最近は薬を渡さないことにした。いつまでこの仕事を続けるべきか迷っているから、せめて最終章はよい仕事だけしたい。その思いが強くなっていることと、子供達に1円もお金を残す必要がないから精神的に無理して働く必要もない。好きで楽しいから働いているだけだ。  話を戻すがその女性が、2週間して電話をしてきた。漢方薬をとりに来てから数日後、いつもの診察日に病院に行ったら、僕の薬局で出してもらった漢方薬程度なら保険で出せるから飲まないようにと注意されたそうだ。今までツムラの半夏厚朴湯を出してもらって飲んでいたが、全く効果がなくずるずる痩せて来たのに、たいしたものだ。僕が作った漢方薬「程度」らしい。ご飯を二口も口に入れるともうそれ以上は喉を通らないという症状だが、僕には簡単に思えた。案の定、お医者さんに言われて僕の漢方薬は4日しか飲まなかったらしいが、効果は既に感じていた。しかし、世の肩書きのレベルで言うと薬剤師など医者のはるか下だから、患者の信頼は当然医者に軍配が上がり、僕には漢方薬を飲まないという報告だけだった。  漢方薬以外、全てお医者さんより劣っていることは認めるが、これは反則だろう。患者さんに対して何のメリットがあるのだろう。1年以上効果を出すことが出来なかった症状に僕が数日で効果を出したのに、そして、保険で使える薬ではなく、薬局用に作られた薬なのに、どうして同じような漢方薬を出せれるのだろう。どうせ高額な収入を得ているお医者さんだろうから、1人くらい患者として囲い込まなくて、苦しい症状から解放してあげればいいのに。漢方薬なんてお医者さんのどんな薬と併用してもかまわないのに。  受話器を置いて思わず「あわれだなあ」とつぶやいた。完治して不安から解放されたはずの女性が、これからもずっと同じ不安、やせることから逃れられないことが。