旦那

 世の中には優しい旦那さんもいるものだ。奥さんのために漢方薬を作ってと言ってきた。奥さんが急に呼吸が出来なくなり、しゃべることもできなくなるらしいのだ。何もしてあげられないのでただただ見ているとやがて収まってくるらしい。いつ頃そんな症状が始まったのか尋ねると、随分前からとはっきりしない。随分は人によって違うから、数年くらいと尋ねると10年も20年も前からと言う。最近特に症状が激しくなったから相談に来たらしい。  当然病院にかかっているが、両親とも心臓が悪かったせいで、奥さんにも不整脈があり、不整脈の薬を出してもらって飲んでいるが一向に収まらないらしい。ご主人は、どうやら僕に心臓の薬、特に不整脈に効く漢方薬を作って欲しいらしいのだが、どうも僕はピンと来ない。不整脈でしゃべることも出来ない?見ているとやがて収まる?  そこで僕はどういった状況でそんな症状が出るのか尋ねた。すると息子さんのことを最近特に心配しいて、考え始めるとそういった状態になるらしい。だから心臓の漢方薬を作ってと、ひどく心臓に拘る。息子さんのことを心配しただけで、しゃべることも出来ない?見ているとやがて収まる?どうも僕にはピンと来ない。  そこでまた僕は尋ねた。「息子さんのことを1人で悩んでいるの?」と。すると御主人の説明では、息子さんのことでしばしば夫婦の間でいさかいがあり、奥さんが暴力を振るうそうだ。ただ100kgに届きそうなご主人だから奥さんの暴力などこたえもしない。振り下ろす手を受け止めてちょっと力を入れれば奥さんは身動きできなくなるそうだ。「ワシは暴力は振るわんぞ」と言うが、それはそうだろう、御主人があの身体で暴力を振るえば新聞ネタになりそうだ。奥さんが暴力を振るう?それなのに息が止まりそうになるのは奥さん?どうも僕にはピンと来ない。  そこで僕は尋ねた。「振り下ろす手を受け止めただけで終り?」「そりゃそうじゃ、ワシは絶対暴力は振るわんぞ。ただオメエがしっかりせんから、あねえなったんじゃ言うてどやしつけたる」  ここで初めて納得。不整脈の薬が効かないのも納得。自分のせいで作った奥さんの病気を、必死で治してあげようとする優しい旦那さん。