落馬

 「過去の不愉快な出来事がフラッシュバックして、いたたまれなくなりじっとしておれない。イライラカッカして物にあたる。そういったときは目が開かない。お通じも不快になる。病院でもう何年も6種類の抗精神病薬を飲んでいる。相談に来てくれたその女性はとても知的でおとなしく、そのような訴えがにわかには信じられなかった。僕は肩の力が抜けるような漢方薬を2週間分作って飲んでもらった。すると焦燥感やイライラ、カッカが7割減った。だからますます落ち着いた素敵な女性に見えた。何か乗り越えられないものに遭遇してこうした症状に逃げ込んで身を守ったことが病気なのかと、僕には思えてしまう。彼女が苦しんだ7,8年は当たり前のことではなかったのかと。心療内科のお医者さんのように僕は専門家ではないが、このように考え、このように漢方薬を作ったら、とても楽に過ごしてもらえる人が結構多くいる。治ったという言葉を使ってもいいのではないかと思える人が一杯いる。僕に言わせれば、不調な状態が結局は身を守ってくれ、長いトンネルを抜けただけだと思うのだが。トンネルの中も人生の一部だっただけだと思うのだが。トンネルのない人生なんて、よほど幸運な人か、よほど図太い人間だけだ。そんな人間一握りで、そんな人間を基準にすべきではない。」

 これは今日の症例報告で紹介した文章なのだが、最近感じていることを少し表現できたので、対象ではない方にも読んでいただきたくてここに引用した。ヤマト薬局は単なる漢方を多く扱う薬局でしかないが、心療内科にかかっている人の依頼が多い。専門家でないから難しい症例を扱うことは出来ないが、難しくしている症例なら扱うことは出来る。僕の感性で作った漢方薬で、結果的にこんなに良くなっていただけるのかと思う症例が多い。心の重荷から解放されたときの喜びは本人は勿論、僕らにも相当大きな喜びだ。  ただ、その種のトラブルの人でそういったことが多いというわけではなく、他のどんなトラブルでも同じだが、揚げ足を取る人は僕の力量や忍耐では無理だ。その種の人に対峙出来る忍耐を僕は持っていない。薬剤師人生の最終コースで落馬しないために、身を守ることも少しばかり最近は優先させてもらっている。