思案

 娘が、昨日の夕方帰りがけに、AさんとBさんが交差点を肩を組んで歩いていたのを見たと教えてくれた。60代の男性二人が、まだ暗くなる前、誰からも見られる時間帯に肩を組んで歩く、それだけで異様だが、実際は片方は少し足が千鳥足ぽく、片方が支えながら歩いていたみたいだ。  問題はこのAとBだ。どちらも僕、あるいはヤマト薬局と関係がある。ただ2人の接点に僕は関与していないから何故だろうと、娘たちとも話し合った。そして行き着いたのが「酒」だ。恐らく酒が2人を結びつけたのだろう。どちらも酒では苦労しているはずなのに、それから離れられず、再び新たなる苦労を呼び込んでいるように見える。ただそれは部外者からの勝手な想像で、2人とも幸せそうな顔をして歩いていたらしい。教えてくれた娘自身も楽しそうだった。  Aとは結構深い付き合いがある。酒で何もかも失い、挙句の果ては御法度を犯し、法務局に延べ3年くらい2回に分けて出張した。次に犯すと3回目の出張になるから僕は年金の額以内で生活するように助言するが、金を借りに来たりするから、あぶないなと気を揉んでいる。  Bは少しの間やって来なかったから心配していたが、これは法務局ではなく大学病院に出張していたらしい。これは長期ではなく1週間くらいだった。そこで肝臓の、ある病気を見つけてもらった。当然酒は悪い。「先生は酒についてどう言っていた?」と質問すると口を濁した。これは酒をやめる気はないなと感じていた矢先に、娘が嬉しそうな顔をした彼を見つけたわけだ。  大抵の人は自分が好きなもので身を滅ぼす。最近では、アホノミクスをテレビで擁護し続けていた評論家気取りのガマグチなんとやらの強姦事件がそれだ。アホノミクスの息のかかった警察から揉み消しを図ってもらったみたいだが、これでもう奴は終りだ。いくら太鼓もちテレビ局でもさすがに奴を使えないだろう。こんな極悪人と比べるにはあまりにも人がよすぎる2人は、たかが酒で身を滅ぼしそうだ。僕を1000人並べても及ばない酒の量を飲んできた2人だが、止めることなど頭には毛頭ない。片や如何に金を工面して酒を買うか、片や、如何にしてお医者さんにばれないようにお酒を飲むかを思案しているに違いない。  酒で身を滅ぼす典型だが、僕は2人を嫌いではない。むしろ好きなタイプだ。だからAには酒代を渡してあげるし、Bには肝臓を守る漢方薬を作ってあげる。男同士が、それも60を過ぎた男同士が肩を組んで歩く。何となく羨ましいような気がする。僕には出来ないことだ。そこまでの距離感の友人を持ってはいないから。彼らのようにアルコールの力を借りて知性や理性を破壊すれば出来るのかな。それもまたよし。