連鎖

 家族には不評かもしれないが、こんな感動に遭遇させてもらえるのだから許して欲しい。  5月21日の福山バラ祭りと西大寺で行われる和太鼓のコンサートが重なったせいで今年は福山は諦めた。その穴埋めのつもりで、今日福山のバラ公園にかの国の女性4人を連れて行った。恐らくバラはまだ十分咲き誇っていないだろうと思ったから、尾道観光をプラスすることで許してもらうことにした。  案の定バラはまだ三分あたりだろうか。それでも花好きのかの国の女性たちはとても喜んでくれた。尾道も想像以上に喜んでくれた。で、今日はその話などある感動に隠れてしまって、テーマとして取り上げることはしない。  赤穂線は岡山が近くなるに連れて混雑し始める。今日も西大寺を過ぎた辺りから座席が埋まり立つ人が増えた。大多羅から乗り込んできた2人の老婆は当然席がなく立っていた。僕の背後で一人の老婆がしきりにお礼を言い始めた。すると程なく違う声もお礼を言い始めた。それに対して、なにやら小さな声で「かまいません、どうぞ」と言うような返事が聞こえた。  振り返ると、今日一緒に尾道を目指したかの国の女性が一人と、かわいらしい顔をした高校生くらいの女子生徒が別々の場所で席を譲っていた。通路を挟んで腰掛けていた2人だ。程なく2人の老婆は譲ってもらったそれぞれの席に着いた。  背後で聞こえた声の時間差を考慮すると、席を譲ったかの国の女性に触発されて女子高校生が席を譲ったのだと思う。見るからに善良そうな顔をした女生徒だったから、良いきっかけをもらっただけだったのかもしれないが、或いは偶然判断が遅れたのかもしれないが、いずれにしてもまるで小さな善意がしたようで、その場に居合わせていて良かったと思った。今日連れて行った4人は来日してあまり時間が経っていないから、ほとんど日本語が話せない。僕は持ち込んでいた本を読んでいたから、背後の出来事を見てはいないが、恐らく照れたような笑みを浮かべながら手振りで席を譲ったのだろう。そうした女性を、仕事のストレスから、或いは国に残した子供や主人のことを想う心から一時でも解放してあげれたら、僕のしている事が単なるおせっかいを越えて価値を持つ。