大野原龍王太鼓

 今まで何回もその演奏を聴いた事があるが、必ず大きなホールでの演奏だったから、舞台からはかなり離れていて、いわば遠景だった。ところが今日和気で行われた「第29回清麻呂の里 藤まつり」では野外音楽堂だから距離が極めて近い。おまけに演奏が始まるや否や雨が急に降り出して、慌てて舞台の横にある太鼓を準備するために建てられたテントの中に勝手にかの国の女性4人と潜り込んだ。本来なら舞台の袖で許されるはずはないのだが、既に出番を終えた演奏者たちと一緒に聴くことになった。  香川県から来てくれた大野原龍王太鼓のなんと言っても代表作は、鬼の面をかぶった打ち手がクライマックスには飛び切り大きい大太鼓の上によじ登り、細くて長い撥を下に向けて打ち鳴らすところだ。何度見てもこの場面は圧巻で、外国の人は一際喜んでくれる。その曲もいいし演出もいいから、正に代表作だと思う。ところがその演奏が始まるとすぐに雨が降り始めた。今日は晴れだが、天気が荒れる所もあると予報されていたが、和気は意外と晴れていてそれまではそんな気配はなかった。ところが始まるや否や雨が降り出し、避難を余儀なくされた。面白いもので僕らは瞬間的にかぶりつきのシートから逃げ出したのだが、地元の人が多かったのだろうか、傘を持っている人が多くてそのような人はまるで動じなかった。山の天気が変わりやすいことを知っているのだろうか。でも、その雨のおかげで僕は大野原龍王太鼓を至近距離から、そして真横から見ることが出来た。今までは人の表情など見ることも出来なかったが、一人ひとりの顔までしっかりと分かり、いかに懸命に太鼓を叩いているかがよくわかった。聴かせて貰えることを、観させてもらえることを感謝しなければならないくらい一生懸命だ。力を振り絞って打ち続けるメンバーを見せてもらって急変した天気に感謝だ。  ところで、その曲は、昔雨乞いの時に打たれた太鼓らしい。それが伝わり現代風にアレンジしているものらしい。急な雨も単なる偶然だろうが、そんなロマンを感じさせてくれる熱演だった。