国語の時間

 この喜びの表現を披露しない手はない。沢山の人と接しているから定型語句から外れた独創的な表現に出くわすと、独り占めにするのはもったいない。その言葉を発したのは70歳くらいの男性だ。岡山市からわざわざ来てくれるようになったのだが、わざわざ来てくれた甲斐があった。  1ヶ月前に来た時に依頼されたのは、逆流性食道炎のせいで咳やげっぷが頻繁に出る。逆におならが出ないから心臓が圧迫されて息苦しい。便意が頻繁にありいつも便が残っているような感覚がある。足先が冷たい。痰が引っかかる。不整脈、めまい、首や肩の凝り、高血糖だった。当然病院を掛け持ちして13種類の薬をもらって飲んでいる。あまりにも多くの薬を飲まされていることと、症状がよくならないことを理由に訪ねてくれた。  応対して、その方が潔癖なことが伝わってきた。綺麗好きと言う意味でなく、ことに当たって完全にやり遂げなければ気がすまないみたいだ。その性格が多くの不快症状に関連している。このコーナーは症例報告ではないから詳細は省くが、煎じ薬で力みをとってあげることでわずか1ヶ月で、逆流性食道炎のせいで起こる咳やげっぷがかなり改善した。おならが溜まり胸苦しくなっていたのもかなり改善、残便感もほとんどなくなった。雲の上を歩いているようなめまい(動揺感)もかなり減った。  今日で3回目だが、律儀な人で、「こちらに来ていてよかった」と何度も繰り返してくれる。1度お礼を言ってもらえれば十分なのだが、何回も繰り返す。その性格が病気を作っているんだと言いたかったが、その性格こそが最強の魅力のはずだから言葉を呑んだ。要はこの男性は「いつもがんばる」病だ。力みをとって、内臓の働きを正常にしてあげれば解決する。「隣の部屋にいる人に聞こえるくらい大きなおならが出始めると治る」と分かりやすく説明しておいたら、今日問題の非常に分かりやすい表現で快調振りを報告してくれた。  2回目の漢方薬を飲み始めて気持ちの良いおならが出始めたらしい。「先生の言われていた事が分かりました。この前薬を頂いて帰ってから大きくて気持ちの良いおならが何年ぶりかに出るようになりました。同居している孫が今7ヶ月なんですが、私のおならで目を覚ますんです。だから嫁や娘が、おじいさん、おならするんだったら隣の部屋に行ってして頂戴と怒るようになったんですわ」と笑いながら言った。心臓が圧迫されるから、おならがたまるのは苦しい。それから解放された喜びを家庭内のエピソードで報告してくれた。まじめに生きてきた人が手に入れる家庭の景色が目に浮かぶようだ。孫が目を覚ますほど大きな音のおなら、過敏性腸症候群のガス腫れタイプの人が聞いたら羨ましいくらいだ。ガスに関してこの表現を上回るものは今だ聞いた事がない。嘗て下痢型の女性が「拝みたくなるようなウンチ」と表現してくれたことがあるが、それに匹敵するくらいの興味深い表現だった。  時々、薬局の中でこのように突然国語の時間に迷い込む。仕事がますます楽しくなる一瞬だ。