生き方

 僕がお御堂の傍にある小さな部屋に入っていったときに、日本人の老人2人と彼女と後輩の男性の4人が、テーブルを挟んで対峙していた。言葉が通じないのを気にしてかどちらも遠慮気味だった。その場を繕おうとしてではない、自然に言葉を掛けて、かの国の2人の間に割り込んでソファーに腰を下ろした。すぐに話し始めると、その2人の日本語の堪能さに驚かされた。特に女性の日本語力には驚いた。結局、それがきっかけで仲良くなったのだが、一つ面白いことがある。いや二つかな、三つかな?  その女性が機知と機転に富んでいることはすぐに分かった。それと未知なる物への好奇心の強さにも驚いた。カトリック教会への興味、変な日本人への興味。「教会、すばらしいですね。いい話(説教)ですね」「オトウサン、また教会へ来ますか?」でその日の彼女の満足度がわかった。  昨夜彼女から電話がかかってきた。日曜日に尋ねておけばよかったのだが、彼女が日本で経験してみたいことを教えてもらった。何か僕の得意分野だったら協力できると考えたからだ。日本語1級を持っているのだから、それもわずか2年で取ったのだから能力の高さが分かる。そんな女性の日本での有意義な体験に貢献できればと思ったのだ。  「〇〇〇ちゃん、自分の趣味は何なの?何か手伝いできることがあったらしてあげるよ!」  「オトウサンありがとう。私読書好きです」  「そうなの、読書なら1人で静かに読んでね」  「野菜作るの好きです。アパートの裏で作っています」  「自分で作って」  「オトウサン、私、料理好きです」  「自分で作って」  「オトウサン私、食べること好きです」  「自分で食べて、代わりに食べてあげることは出来ないから」  「私カラオケ好きです」  「僕はカラオケ大嫌い」  「特にスマップとスピッツが好きです」  「スナックと犬?」 全然かみ合わない。見事と言うほかはない。そこで彼女が一大提案をしてくれた。  「オトウサン、28日の金曜日遊びませんか。私も〇〇〇君も、〇〇〇君の友達の△△君も休みです」  「その日は金曜日ではないの。遊ぶわけにはいかないよ」  「そうですか、残念です。オトウサンに会えて幸せでした」  「お父さんに会った人は皆、不幸になるよ」  電話を切ってから目の前で聞いていた次女と三女が、平日に遊ぼうと誘われたことについて「オトウサンの格好だったら、仕事がない人のように見える。誰でも、そう思う」とにやにやしながら言った。「オトウサンのソックス右と左、色が全然違う」薬局では誰も僕の足元など気にしないから、片や黒色、片やねずみ色でも似た色だから分からないだろうと思っていたが、さすがに台所では足元が全てあらわになるからちゃんと気がついていたのだ。  妻と2人だと身だしなみなどどうでもいいのだが、若い女性達と暮らすとそうは言って・・・・おれる。生き方までは変えない。