行動的

 お父さん、どうも有り難うございます。返事が遅くて、ごめんね。前京都へ遊びに行って来た時すごく嬉しくて感動しました。お父さんのおかげで、京都の有名な所まで行けました。夢だに思わなかった事が事実になった、本当に有り難う。

 何となくぎこちないが、このメールは、かの国の女性から届いたものだ。1週間前の日曜日に2人のかの国の女性を京都に連れて行ったが、そのことに対してのお礼だ。今回同行したのは牛窓工場ではない他の工場の通訳二人だ。日本語はかなり堪能で、日本語検定の1級に後10点くらいで落ちた人たちだから、この程度のことは簡単に話せるし書ける。ちょっとしたニュアンスはどうしても越えられない壁になっているみたいだが、下手な日本人よりも語彙も豊富で漢字も書ける。  日本語を習得していたら、国に帰れば就職にはかなり有利で、引っ張りだこみたいだ。当然給料もよいから、通訳だけでなく一般の労働者として来日した人たちも、日本語の勉強に精を出す。その熱心さと、その結果としての日本語の会話力はうらやましい限りだ。ハングリー精神は見ていて気持ちがいいし、自然に応援したくなる。  2人のうち御津工場の通訳は、二度と日本に来ることはないと言っていた。日本人の働き方にはついていけないし、そこまでする意味を感じないそうだ。もっと自然にのんびりと暮らすほうが彼女には合っているみたいだ。あるとき、僕が腕時計も携帯電話も持っていないことを知って、「お父さんは 私の国が合っている」と言ってくれたが、それには同意できなかった。僕は自分を縛るものは嫌いだが、働くことが大好きなのだ。ゆったりとした時間を過ごすなど、仕事をし始めてから40年したことがない。決して猛烈とか貪欲ではないが、この仕事は好きだ。  逆に赤坂工場の通訳は再び日本に来たがっている。向こうで専門学校を卒業して通訳になったが、大学に行っていないことが心残りみたいで、日本の大学に入りたがっている。向こうでは学費を払えるような家庭環境ではなかったから高嶺の花だったらしいが、3年間一所懸命働いたお金を貯金してるから、大学も夢ではなくなったみたいだ。既に日本の大学とコンタクトをとって、旨く行けば又帰ってくるだろう。  それぞれが希望を胸に来日し、3年間で帰っていく。多くの思い出を作って欲しいとおせっかいを焼くが、それが今の僕を少しだけ行動的にしてくれる。こういった巡りあわせがなければ僕はどれだけ淡白な日常を送っているだろうと思う。