揺り戻し

 米国内科学会が先ごろ発行した新たなガイドラインによると、腰痛患者にはまず薬剤を用いない治療法を試すことが推奨されている。何でもかんでも薬で解決できると思わされていたものが覆された。ただし、こんなこと、言われなくても多くの患者は昔から分かっていた。仕方ないから飲むくらいなもので、治ることなどほとんどの人が諦めながら飲んでいた。若者が急に傷めたのなら、鎮痛薬を飲ませておけば自然に治るが、中年以降の人はなかなか治らない。自然治癒力なるものが枯渇してきているから、薬などでは治らない。  アメリカでは鍼や運動やリラクゼーションを勧めている。合理的な国だから無駄なことには厳しい。治らないような治療に保険会社は金を払ってくれない。親方日の丸なら、鎮痛薬もシップももらい放題だが、アメリカは保険会社の支配下にあるから、無駄なことは許されない。それと日本人みたいに沢山薬をもらえば満足な国民性とは違う。   鍼や運動やリラクゼーション以外にも、いくつかの自然な治療法を推奨していたが、その中に漢方薬はなかった。まだまだ本物の漢方薬は、個人の技術によるところが大きいから、一般論では語られなかったのだろうか。僕も多くの腰痛患者の漢方薬を作っているが、それこそ自然治癒力を導き出すにはうってつけだ。どうして田舎の薬局の漢方薬で腰痛が治るのか不思議だろうが、1度効果を実感できた方は遠路はるばる来て下さる。  科学は一直線に発達しそうなものだが、結構な揺り戻しがある。化学薬品の切れ味に磨きをかけて、自然薬など必要なくなってもいいと思うのだが、どっこい存在し続けるし、価値が見直されることも多い。自然であることの価値を破壊して発展してきた「不自然」の極みを救うことが出来るのが自然とは皮肉なものだ。結局何処まで行っても自然には勝てないということか。