勲章

 同じ人なのに、体調や心調が整うとこんなに美しくなるものかと驚かされる。同じ目、同じ鼻、同じ口なのに、どうしてこんなに変わるのだろう。人工知能ならこの変化をどういった数字で表すのだろう。人の感性さえも人工知能は数値化できるのか。全くその世界に疎いから、疑問を投げかけるだけでなんら答えを持っていないが、表情の変化を機械は読み取れるのだろうか専門家に尋ねてみたい。  僕はAIではないから、その変化をずっと感じ取っていた。少しずつ変わっていることを感じていたし、つい最近では「こんなにまで変われるのか」と驚きをもって見ていた。元々体調や心調が悪いにもかかわらず凛としていた。背筋はいつも伸びて、笑顔もこぼれていた。ただ、今の笑顔は当初の笑顔とは雲泥の差で、心からはじけるような笑顔をする。この変化に僕の漢方薬が貢献できたのだろうが、先日来た時にありがたい言葉を口に出してくれた。思いもよらなかったことだが「薬局に来て帰るときは気持ちがいいんです」と言ってくれたのだ。煎じ薬が出来るまで毎回10数分、あるコーナーで待ってもらうのだが、その場所は娘夫婦が智恵を絞って心地よく待ってもらえるようにしている。ドライフラワーなど、およそ僕とは縁遠いものが何気なく飾られているのだが、その雰囲気をさして気持ちよいと言ってくれるのか、或いは僕とのたわいないお喋りを言ってくれているのか分からないが、どちらにせよ、気持ちよく帰っていただけるのは薬局冥利に尽きる。  そう言えば今回彼女が入ってきてすぐに、19日に総社市民会館で行われた備中温羅太鼓の定期公演のチケットを見せて和太鼓の薀蓄を披露した。そんなことでどうして漢方薬を取りに、わざわざ遠くから来てくれるのか分からない方も多いかもしれないが、ヤマト薬局の全てに嘘がないからだと思う。実力不足は多々あるが嘘はない。  今日、面白い偶然があった。一人は隣町から初めて来てくれた方。夫婦のトラブルの漢方相談だったが、2人分で5000円だった。ところが、その値段が、レジをした姪の間違いだと思われたらしい。何でもその方は二人分で4万円を用意して来てたらしい。今まで岡山市の薬局に行っていたらしいが、そのくらいを用意していないとダメだったらしい。もう一人の方は関東の方だが、ある相談で地元の薬局に行ったら一月7万円くらいかかると言われたらしい。その相談の病気に使う商品らしきものを教えてくれた。同じ薬局として恥ずかしくて口に出せないが、恐らく何の相談に行っても同じものを勧めるのだろう。そんなレベルの薬局がむしろ評判なのだろうが、そうしたところでは「気持ちよく帰る」ことは出来ないだろう。来なければよかったと言う後悔とともに薬局を後にするのではないか。そもそも、漢方薬は高くない。それに健康食品なるものを引っ付けてきたら、断るべきだ。田舎に暮らしてみれば分かるが、本当の健康食品は海を泳ぎ、畑で出荷を待っている。  若い女性の凛とした美しさ、心からの笑顔、田舎の薬局の勲章だ。