混乱

 早朝電話がかかってきた。僕がウォーキングに出ている時間帯だったから、後ほど電話をと言うことになっていたらしいが、次にかかってきたのは12時を回ってからだ。急を要する電話かと思ったら、6時間も間を置くことができるのだからたいしたことはないのかもしれない。しかし電話では、それなりに緊迫感はあった。  ただ、僕には訴えを聞いて緊迫感を共有しようと言う気持ちは全く湧いて来なかった。「前から言っていたじゃない!」と言ってあげたいくらいだ。でも僕がいくら力説しても聞く耳は持ってはいないだろうが。  「今になって、病院の先生がデパスを飲まないほうがいいと言って、他の睡眠薬を渡されたんですが、昨日も今日も全然寝れないんです」と心配そうだ。10年以上も飲まされていて確かに今となってでは納得が行かないだろうが、国がそれこそ今となって向精神薬と言い始めたのだから医者もどうしようもないのだろう。当初は肩こりのために飲まされていたらしいが、睡眠効果が高いから睡眠薬の変わりとしても重宝していたみたいだ。元々アメリカには持ち込み禁止レベルの薬だが、日本では医者が簡単に投与していたから超普及品だ。商品名もその道の患者さんの中では有名だ。  何か必ずきっかけがあってこの種の薬は飲み始めるものだが、こうした薬が必要となった背景をこの国では解決しようとしない。何かのきっかけは誰にでもあるはずで降って沸くようなものではない。そのきっかけを作った状況を解決、或いは克服しない限り根本的な解決にはならず、ついつい薬物に頼ってしまうのだろう。僕はこの種の薬を使うお医者さんが、どの程度患者さんに対峙してくれるのか知らないが、そんなに短時間で理解出来るものではないだろう。逆に患者さんはどのように要約して症状を訴えているのだろう。そしてどのようなケアをしてもらっているのだろう。  恐らく長い間、なあなあですましていた医療者も患者も、それなりの付けを払わされるだろう。全国で言うと大変な数の患者が飲んでいた薬だ。自然治癒力を増そうとしない安易な対処の仕方の付けを、払わされていることに気がつけば、今回の混乱も意味がなくはない。何かがスコンと抜け落ちているのが日本の医療だと思う。製薬会社の力が強すぎるのかな。